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他人に興味ありません

俺とトトはどちらからともなく視線を合わせた後、男の子の手のひらを上から一緒にのぞき込んだ。

その小さな手のひらに乗っていたのは、白銀に光るペンダント。


おやゆびの爪くらいの白色のこじんまりとした宝石はその内側から光を放っている。

宝石をはめ込んだシルバーの台座には、首からかけられるようチェーンがついている。

それなりに丁寧な細工だ。


トトはすっと指を伸ばして、その光沢のあるペンダントをつまんで上にかざす。

難しい顔をして、方々の角度からなめるように眺める。

そして、どことなくこわばった声でぽつりとつぶやく。




「これ……ちょっと借りるわよ」




トトはそういうと、ペンダントを握りしめて慌てたように後ろの部屋にさっと引っ込んだ。

ほどなく、何故か俺だけを呼びつけた。


俺は男の子に待つように言って奥の別室に入る。

室内のあちこちには、何に使うのかわからないような器具が雑然と並んでいる。

瓶に釜に、巨大な計り。これも占い師の雰囲気づくりなのか。ただの汚部屋(おへや)汚部屋(おへや)

応接間はまだ見れるが、この部屋の汚さは俺の部屋を凌駕している。足の踏み場もないとはこの事だ。

どこぞの令嬢だなんてぜってー嘘だろ。




トトは薄暗くせまっ苦しい部屋の隅のテーブルに腰掛けている。ろうそくの灯りのもと、右手に持った片レンズのメガネを通してさっきのペンダントをまじまじと眺めている。


トトはどこか声をひそめるように口を開いた。





「……ちょっと、ウルちゃん、あの子なにもの?」

「しらんよ、そんなもん」

「名前は?」

「聞いてない」

「聞いてない? あなたって、ほんっとにおっぱいにしか興味がないのね」



呆れ声のトトに俺は自分の主張を伝える。



「あのなぁ、あいつが俺の仕事の依頼主ならまだしも。あいつは単に俺が作った罠にかかったガキだ、また罠にかかられると厄介だから連れてきただけであってだな」

「だとしても、子供をかくまっておいて、その子の名前も聞かないってヒトとしてどうなの」




吐き捨てるようなトトの呟きに俺はまたしても反論する。




「依頼主じゃない奴の名前なんて聞いてもしかたがねーだろ」

「よく言うわ。名前を聞くと情が移っちゃうんでしょ。ところでね、このペンダントについてる宝石、なんとミスリル鉱石よ。この大きさでもなかなかの値がするはず」

「ミスリル鉱石だって!? そんな高価なもん……あ、それ、ニセモノじゃねーのか?」

「間違いなく本物よ。しかもね、このペンダントの裏をみて」




トトはそういうと俺に手招きした。俺が近寄ると、トトは俺の顔の前にペンダントの乗った左手を差し出した。


ペンダントの裏側の台座。銀色の平面中央に四角い模様とその下に文字が彫られている。

俺に少し顔寄せて、トトが言う。




「この模様。隙間のないひし形四つはアラビカ公国の国章(こくしょう)(国の紋章)よ。それにその下にある名前、見える?」

「んん……? ゲオルグ・フロート2世っていやぁ……だれ?」

「もう! あなたやっぱりおっぱいにしか興味ないじゃない! いまのアラビカ公国の君主、ゲオルグ・フロート2世大公(たいこう)よ。しかもアラビカ公国では国章の描かれた品は君主の一族しか所持が許されてないの。他人が持てば見つかり次第、処刑よ」



なぜそんなものを、あいつが持っているってんだ。



「まさか、あの細っこい薄汚れたガキが、アラビカ公国の君主の息子だってのか? 王子様ってこと?」

「あくまでも、可能性の話よ。それにこのペンダントが盗品って可能性もあるからね。王子かはたまたコソ泥か……ふふふ。でも、このペンダントなら亡骸の”防腐術”の担保としてはおつりが出るくらいだわね♪ オッケーよ。亡骸の方はわたしがなんとかするわ」



さっきまでとはうって変わって、トトは急に乗り気な態度を見せ始めた。現金な奴め。

しかしだな。



「……ちょっと待てよ、もしも、あのガキがアラビカ公国の王子だとすると……あの亡骸は?」

「普通に推測すればアラビカ公国の王妃(おうひ)という事になるわね」

「こ、こここここ、国賓(こくひん)(国王が正式に接遇する他国の偉い人)じゃねぇか。て、丁重に扱わねば」

「ふふ、変わり身の早い事」

「けっ、お互い様だろうが」



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