意外とあっけないもんだ。
リィピの傀儡部隊の第一陣である4人は二手に分かれ、岩陰に身を隠しながらそれぞれの標的を目指して直線的に向かっていく。
ふいに、戦いの火ぶたが切られた。
リィピ達が頭上に手をかざすと、その手のうちがわに煌々たる閃光がほとばしった。
あふれんばかりの青白い光の中から、柄の長い巨大な斧が浮かび上がる。
魔光器(魔術の武器)だ。
リィピ達はその斧を野太い手でつかむと、敵に飛びかかり初手の一撃を放った。
第一陣接敵。
戦闘中。
俺は心の中で、次を命じる。
____第二陣6名、二手にわかれて半円に回り込み、敵の側面から投擲にて攻撃。
命じた途端、俺の後ろに待機していたリィピの傀儡人形達6人は一気に俺を飛び越えて腰を低く着地する。
獣のように四つ足になると、そのままの姿勢で猛烈な勢いで地を這いすすむ。
そのサマに、俺は思わず感嘆の声が出た。
「……ほぇ、す、すげぇな。まるで魔獣だ」
「何を驚いている、ワタシには視覚がないのだ、戦況がわからず、むずがゆい」
「後で話してやる、ま、第二陣の投入で、一気にこちらに有利に傾く」
重要なのは各個撃破だ。
多数対多数の戦いではなく、多数対一に持ち込むことが戦いでは何よりも有効なのだ。
俺は敵に接近していく第二陣にさらに命じる。
____攻撃を敵の一名に集中させ、投擲せよ。
第二陣のリィピ達は、疾風のごとく地を駆けながら、頭上に手をかざす。
その手のなかに、青白く光り輝く投擲斧の魔光器(魔術の武器)が、浮かび上がった。
リィピ達はその投擲斧をがっしりと指で包むと、次に、大きく振りかぶり全身をひねりながら投げつけた。斧は高速で回転しながら弧を描き、はじけるように敵めがけて飛んでいく。
「……仕留めた!」
壁際にいた二人の紋章師の内、一人に三つの斧が命中する。
そいつは断末魔の声を挙げながら床に沈んだ。その後は、もはや勝負にならない。
もうの一人の紋章師も6人のリィピを相手に、かなうはずもなく倒れた。
これで、壁際の二人は片付いた。
「つぎ!」
俺は視線を移す。次は中央にいるバオを含んだ3人の紋章師だ。
こちらはやや苦戦気味だ。
赤い閃光、緑の光。魔術の光が明滅するたび、洞窟の中がパッと照らされる。
敵は炎やイカズチを放ちながら、リィピ達と応戦している。
しかし、もはや時間の問題。
いまや、3対11の戦いだ。
数で圧するこちらの勝利はほぼ確実。
しかし、バオだけは生け捕らなくてはならない。
なんといっても、俺の濡れ衣を晴らすための証人になってもらわなくてはならないのだから。
俺は恨みを込めて毒づいた。
「けっ、拷問にかけられるべきは。バオ、お前さんだ」
ついに敵の紋章師3人のうち、一人倒れ、二人目も倒れた。
残るはバオ一人きり。
リィピ達に取り囲まれたバオはさすがに観念したのか、抵抗をやめたようだ。
制圧完了。
オレは額に浮き出た汗を拭い「ふぅ」と一息ついて立ち上がる。
黙り込んでいたベルナが、待ち切れないとでもいうように問いかけてきた。
「ウル、終わったか?」
「ああ、意外とあっけなかった。もう少し骨のある連中だと思ったが。華国の紋章師といっても大したことねーな。俺様の大事な呪具を使うまでもなかったな」
「ウル、これは世辞ではないのだが……ひょっとして、お前は名のある紋章師なのか?」
「こう見えて、まがりなりにもエインズ王国のもと宮廷魔術騎士団さま、だからな、へっへっへ」
「エインズ王国宮廷魔術騎士団とな……たしか、金の八つ獅子の紋章をもつという……」
「八つ獅子なんて、いまや形だけさ」
「こんな噂も知っているぞ。エインズ王国の宮廷魔術騎士団には傀儡使いと呼ばれる凄腕の呪いの紋章師がいた、と」
「まぁ、そんな噂もあったっけなぁ」
俺はベルナと話しながら、ゆっくりとリィピ達に捕らえられたバオのもとに進んだ。