傀儡部隊の分隊長ですかね
俺は傀儡術の呪詞(呪文)を唱えようと身構えた。
腹の底に意識を集中しようとしたその時、ふいに邪魔が入る。
間の悪いベルナが、俺の心をかき乱す。
「ウル。お前、10人もいるリィピの傀儡人形を同時に操るというのか?」
「……お前さんは、話しかけるタイミングってものがわからんのか」
「つい疑問におもってな」
俺は抗議の意味をありったけに込め大きなため息をつく。
胸元のベルナを睨んで話す。
「俺の役割はだな……ちょうど分隊長ってところだ」
「言うなれば、傀儡部隊の隊長か……それぞれの傀儡人形はお前の命令の元、ある程度は独自に動くと?」
「そうだ。今回は、敵の殲滅ではなく時間稼ぎのようなものさ。やばくなれば退けばいいしな、ダゴン信徒たちがすでにこちらに向かっているのだから」
俺が広間に目を配りながら小声でそう伝えるとベルナは不思議そうにつぶやく。
「なに? ダゴン信徒の奴らはこの場所を知っているのか?」
「珍しく読みが浅い。今しがた“もう一人の俺”がこの場所をダゴン信徒たちにゲロったんだよ」
「なるほど……奴らに捕まったお前の傀儡人形がこの場所を伝えたと……よく練られた作戦じゃないか」
「そうでもない。お前さんに褒められるなんて、なんだか寒気がするぜ」
俺はそう言い放つと、足元に並んだ“ヒトガタ”の上にリィピの体の一部である鱗をのせる。
そして、指で呪印を形づくり口元で小さく傀儡術の呪詞(呪文)を唱えた。
一瞬、指先からパッと赤い閃光が飛び散ったかと思うと、ヒトガタと鱗が混ざりあう。
ヒトガタがぐにゃりと変形し、その場にずずず、と大きな影が盛り上がり始めた。
その影はムクムクと実体を持ち、俺の目の前に次々と魚獣人族のリィピが誕生しはじめた。
青い鱗に包まれた巨大な身体のリィピは、のそりと立ち上がると、凶暴そうな黄色い目玉を険しく光らせ、生臭い息を「はぁ」と吐いた。
狭い地下道に次々と生まれ出る何人ものリィピに押し出されるように、俺は少しだけ前に進んだ。
広間に目を配りつつ、もう一度敵の位置を改めて把握する。
円形に広がる洞窟内の広間の中央に、こちらに背を向けた3人がいる。
そして、右手奥の壁際で立ち話をする人影が2人だ。
所々、床が下から押し上げられたようなゴツい隆起が点々と。
あの岩陰は身を隠すにはちょうどいい大きさだ。
俺は自ら気合いを入れる意味で「よし」と力強くささやいた。
まず、戦闘が始まった場合に一番厄介な存在となるのは回復魔術を扱える紋章師。
「……バオ」
バオは“祝福の紋章師”なのだ。
回復魔術を操り、傷ついた味方を瞬時に癒したり、戦闘不能から復帰させることができる。味方にいると頼りになるが、敵にいる場合にはおそろしく面倒くさい存在となる。
バオ以外の4人の紋章師が、どんな属性の魔術を扱うのかは不明だ。
こうした不利な条件がある反面、こちらにとって、有利な点もある。
有利な点として、一番大きいのは、なによりも奇襲ができるという事。
そして、数。
相手は5人、こちらは俺を含めて11人、圧倒的な物量の差がある。
ただし、数が多いといっても俺以外はすべてが魚獣人族のリィピという同じ投擲斧の紋章師だ。戦術はかなり限られたものになる。
「投擲斧というと……近接、かつ中距離の直接攻撃を範囲とする魔光器……ここは班を分けるか」
まず、第一陣をつかい奇襲させる。
第一陣が接敵した後、すぐに第二陣を放ち中距離攻撃を仕掛けて撃破する。
これが一番、原則に則った戦術か。
俺はふっと息を吸い込むと、声なき声でリィピ達に命じる。
____第一陣4名、二手にわかれて、可能な限り敵に気づかれぬよう接近し、即座に攻撃に移れ。
俺の後ろから、リィピの傀儡人形たち4名が、まるで風のように一気に駆け抜けていった。




