占いの館
まっ昼間だってのに部屋の中は薄暗い。それもそのはず、すべての窓には分厚い黒のカーテンがかけられ太陽の光は寸分残さず遮られている。
光源というと部屋の隅々の燭台に並んでいるろうそくの火のみ。あちこちのろうそくはまるで背比べをしているかのようにみな長さがちぐはぐだ。
トトいわく、占い師っぽくするための雰囲気づくりだそうだ。
幻想的、というよりはなんだかくたびれた安い娼館の陳腐な演出みたいな気もするが、そんな事は口が裂けても言えない。
トトにいったらどつかれそうだから。
応接間中央にはまんまるの古びたテーブル。
その上にはおどろおどろしい古代文字が並ぶ魔術陣の描かれた黒いシーツがピシッとしかれている。
その中央に大きく輝く水晶玉。
俺たちはそのわざとらしい水晶玉を囲むようにして、丸テーブルの席に着いた。
「じゃあ」と、俺はさっそく切り出した。
トトに用件だけをかいつまんで説明する。
他国から来た男の子が母親を亡くし、この地に迷い込んだ。しかし母親の亡骸を自国に連れ帰りそこで埋葬したいのだと。
トトはすこし思案ような顔をした後、話し出した。
「う~ん、そうねぇ……”その子”はいつ亡くなったのかしら」
「昨日の夜だそうだ」
「この暑い時期、もう半日以上たってるじゃいの。人の体って意外とすぐに腐るのよ」
「そうなのか、なんかさっき見た感じではまだそんなに……」
トトは指を折りながら講釈を垂れる。
「死斑、硬直、腐敗、一カ月もすれば白骨化しはじめるわよ。温度にもよるけど、なにか処置をしておきたいのなら早く”その子”をここに連れてこないとだめよ」
「で、何か手立てがあるのか?」
「亡骸の腐敗を遅らせる防腐術くらいならできるわ。ただし、これって結構手間なのよ、毎日の作業があるからね。防腐液の材料費と魔術料金、高くつくけど支払えるのかしら?」
俺は、俺の隣の椅子で縮こまっている男の子に視線を送る。
男の子は困った顔でもじもじとうつむいている。食いもんにも困ってるやつが金なんて払えるわけないんだが。
トトはその辺は商売として割り切るからな。ま、はっきり言って俺より容赦ない。が、交渉次第というところもある。まけるな、わが弟子よ。
トトは男の子にずいっと圧をかける。
「どうなのかしら、ぼく? 払えないっていうなら他を当たってもらうけだけね」
「いまお金はない。でも……でも……後で払う!」
「そんな口約束がつうようすると思った? お金がないなら担保をよこしなさい」
「た、たんぽぽって? 花のたんぽぽ?」
「た・ん・ぽ、よ。つまりお金の代わりに人質をよこしなさいってこと」
おいおい、表現がおだやかじゃねーな。俺はふたりのやりとりを黙って聞いている。
男の子はすこし口を結んだあと、パンツのポケットに右手を突っ込み、トトに向かって手のひらを差し出した。
「じゃ……おかねをはらえるまで、このペンダントが人質だ! 僕の大事なものだ!」