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ポーラの心 ①

さて



ここで少しだけ、主人公ウルの視点からはなれます。



今回の”クローンの呪法”をウル達に依頼したマーメイド族ポーラの視点へ・・・・・。



ではでは・・・・・。




「おい、ポーラ、クローンの呪法の方はどうだ?」




聞き飽きたそのくぐもった声。

尊大なその響きから、その者の気質が嫌というほどに伝わってくる。





ここはクリーブランド内にある絶壁の氷城(ひょうじょう)とよばれるゴート城。

その最深部にある、謁見の間。





挿絵(By みてみん)





その広間に響き渡るこの声の主は、クリーブランド全域を治める首領である、魚獣人(マーメイド)族のザザミル。

私にダゴン族の復活を命じた張本人だ。

私はひれ伏し、額を冷たい氷造りの床に押し付けたまま答える。




「只今、準備中です」

「このたわけ! いったい、いつまで準備するつもりだ!!」

「もうしわけありません。またもや、スプラの王国の連中の邪魔が……」

「ふん! また奴らか! な~にがスプラ王国だ。アスドラ帝国という虎の威を借るキツネどもめ。このクリーブランドの真の元首は我らだというのに」

「はい、おっしゃる通りです」

「ちっ、しかし……今回の、その紋章師どもは信用できるのか……」




私の頭の上で響くザザミルの独り言。その声にはどこか不安が入り混じる。

それもそのはずだ。

ダゴン族を復活させる為に、今まで何人もの紋章師を呼び寄せ、何種類もの禁術を試したものの、すべてうまくいかなかった。

回復の魔術、復活の魔術、蘇生の魔術、再生の魔術、どれもこれも失敗続き。

その度に、私はこうしてザザミルからの意味のない拷問のような叱責を受け続ける。

もはや耐える必要もない、なぜならばこれが日常なのだから。

慣れてしまえば、通り過ぎるのを待つのみだ。



幾度もの失敗の上、今回、試すに至ったのは、“クローンの呪法”とよばれる呪いの魔術だ。

私が見つけた“不完全なダゴン族の生き残り”を復活させるのではなく、その複製をつくるという試みだ。

しかし、これとて、うまくいくという保証などどこにもない。

ザザミルは重苦しい沈黙の末、再び口をひらいた。




「今回もわかっているだろうな」

「はい、かかわった部外者は全員“生贄(いけにえ)”にします」

「お前が氷の底で見つけたあのダゴン族のメスは食欲旺盛だ……特に強い魔力を持った紋章師をよく好んで食うのだとか」

「はい……」

「ポーラ、お前は同族のよしみでなんとか生かしてやっている。しかしあまりにも失敗が続くとなぁ……ま、せいぜいエサにされんよう、心して取り組め。ふん、もう下がっていいぞ」

「はい……ザザミル様……」



私はすっと体をもちあげ、背を向けた。


私の背中からザザミルの厭味ったらしい咳払いが聞こえた。

ふん、何もわかっていないのはザザミル、お前のほうだ。

“彼女”はすでに私のもの。

彼女の心はすでに私の手の中にある。

彼女が復活したあかつきには、まずはザザミル、お前を生贄としてささげるとしよう。

そして私と彼女が、このクリーブランドの首領、いや、王と王女になるのだ。



「ふふふ」



ふと、足をとめる。

そして気がつく。

今の笑い声が自分のものだったという事実に。

意図せず笑いが込み上げるなど、初めてかもしれん。私は自分に言い聞かせるように呟く。



「彼女さえ、蘇れば」



その光景を頭に浮かべるだけで全身が震えるほどの恍惚感が溢れ出す。

その未来は、そう遠く無いのかも知れない。



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