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クローンの呪法



「ひぇぇ……この部屋って、氷を削ってつくったのか?」




驚きに満ちたバオの声に、ポーラが振り返り応える。




「そうだ。今回キミたちに頼む高位の複合魔術はそれなりにおおきな魔術陣が必要となる。だから、準備だけでも数日、あるいは十数日はかかると思う。どれくらいかかるかはキミたちの仕事ぶり次第だが。魔術書や、魔道具などの準備物はここに持ち込んでもらうよう手配する」

「至れり尽くせりだな。で、肝心な事をまだきいていないが。ここでオレたちに何をさせようってんだ?」

「……キミたちに頼みたいのは高位の複合魔術である“克隆(クローン)の呪法“だ」

「クローンの……じゅほう?」

「そう。人物を作り出す呪いの魔術とされている。それも、複製や模倣というものとは一線を画したもの。全く同じ性質をもつ人物を、もう一人作り出すことができる呪法だ……同じ顔、同じ体、同じ記憶、そして同じ運命を持つ、もうひとり」




クローンの呪法、か。

聞いた事はあるが、実際に行ったことは、もちろんない。

もしかすると、テマラならばこの呪法を過去に行った経験があったのかもしれないが。


しかし、自分と同じ人物がこの世に作り出されるだなんて。

当人にしちゃたまったもんじゃねぇな。ひどいくらい悪趣味な話だぜ。

バオが続けてポーラに向かって話しかける。




「で、その作り出す人物というのは?」

「それは……悪いがウルにのみ教えよう。この“クローンの呪法”のもととなる“傀儡人形(パペットドール)”を作るのはウルだ。傀儡人形の精度を上げるにはその人物のことを深く知る事が重要となる、そのはずだね?」




ぎょろりと揺れるポーラの目が俺に向けられた。その時、ポーラの視線にいままでにない感情が見えた。そして、その感情は俺にとってあまり心地のいいものには感じられなかった。

敵意とまでは言わない、牽制に近いなにか。

俺はポーラの感情のこもった視線を見返す。




「たしかに。ポーラの言うとり。傀儡人形(パペット・ドール)を作るにはまず、その人物の体の一部が必要だ。そして、さらに精巧なものを造り上げるには、その人物の外見だけじゃなく、内面をもより深く知る事が重要となる。性格、主義、趣向、なんたって、魔術の精度をあげるのに必要なのは、想像力だからな」




俺の答えに満足でもしたのか、ポーラは小さくうなずいて続ける。





「ウルには、じきに、その人物に会ってもらう事になるだろう。それまでは、みなにはここで複合魔術を実行するための魔術陣の準備をしてもらうことになろう。さて……」




ポーラが話を閉じようとしたところで、黙っていたシュウリンが声を上げた。




「なんだかウルだけって、ずっこくない? 私たちは蚊帳のそとってわけ?」




不服そうな顔を見せたシュウリンを、バオが呆れた声でさとす。




「おいシュウリン。知る必要のない事に首を突っ込んだってしかたがないだろ」

「だからってさ、なんだか腑に落ちないわ」

「その人物の事を知ったところで、オレたちの仕事の内容が変わるわけじゃないだろうがよ」

「不公平感が半端ない!」

「どこが不公平なんだよ。オレたちはみなそれぞれに扱う魔術がちがうんだから、仕事の内容がちがってあたりまえだ。これは不公平なんじゃなくて不平等ってだけだ」

「どっちも一緒よ!」

「はぁ……これだから……もういいから、黙ってろ」

「やだ、やだ、黙んないよーだ!」





それを静かに見ていたポーラは何も言わず、みなを置いて洞窟の出口に向かっていった。

肝の据わったやつだ。俺はポーラの後を追う。




「……ま、シュウリンの相手はバオに任せよう……」




洞窟の出口付近で、俺はポーラに声をかける。ポーラはゆっくりと振り返った。




「なんだね」

「今回、俺たちを集めたのはお前さんだな」

「……いかにも」

「俺の事をどこまで知っている?」

「いわなかったかな、テマラが見つからなかったので、その弟子のような存在であるキミを……」

「だからだよ。俺の“出自”を知っているってことだよな」




ポーラは慇懃ともいえる動作で後ろに手を組んだ。

そして、ゆっくりと話した。




「かつてキミは“黄泉(よみ)がえりの呪法”という呪いの魔術をその身にうけて死ぬはずだった。実の兄の身代わりとしてね」

「あぁ、だが、何の因果か、今はこうしてぴんぴんしているがな」

「嘘をつかなくてもいい。ぴんぴんしているように見えて、その身には呪いによるいくつもの反作用が生じているはずだ。鼓動や体温など、ありとあらゆる部分で、おおよそヒト族の平均値を大きく下回っているのではないかな。言ってみればキミは半死人(ハーフ・デッド)だ」




いきなり胸ぐらをつかまれた気分。

こいつ。俺はそんな話はごく限られた者たちにしか話していない。

それなのに、そんなところまで知っているだなんて。

一体、何者だ。俺は何喰わぬ顔で”秘密”をこともなげに話すポーラを睨みつける。




「お前さん、テマラとは随分深い間柄のようだな」

「テマラだけではない、キミとも、だ」

「……悪いがアンタの顔を忘れるほど俺はまだ耄碌(もうろく)しちゃいないぜ」

「だろうね、私が初めてキミとあった時、キミは私の事を認識できる状態じゃなかったからね」

「どういう意味だ?」




ポーラは俺から視線を外し、まるで遠くを見るようなまなざしで告げた。



「私が君とあったとき、キミは15歳。巨大な魔術陣の中央に寝かされていたんだ。その時の君の目は、死を悟り、世のすべてに興味を失っていたようだったよ」

「……なんだと? お、お前さん……まさか?」

「そう。キミにかけられた“黄泉(よみ)がえりの呪法”には今回と同じく、5人の優れた紋章師が必要だった」

「そのうちの……ひとりが……お前さん、だってのか……? この俺に、この俺を……」




ふいに、ポーラが大きな目玉で俺の顔を覗き込んだ。




「そうだったら、どうするかね? エインズ王国、現国王アルグレイ・べリントンがご子息、ウル・べリントン様」




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