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魚獣人族のポーラは無表情です


足元からの焚火にてらされた男の顔はてらてらと不気味に光っていた。

明らかに俺と同じヒト族ではない。


大きく両側に飛び出した無機質でまん丸な目の玉。下あごがやや膨らんだ、青い鱗におおわれたその顔からは表情がまるで感じられない。

そいつは前にとがった口をひらいてこういった。




「私は魚獣人(マーメイド)族のポーラだ」

「ああ……どうも、俺はウルだ」




厚手のマントの下から音もなく差し出されたポーラの手を握る。

ひれのついた手はぬめりとしていた。それに妙に冷たい。

俺は不快感を抑えようとがんばってみたが無理だった。反射的に思わずブルりと身震いする。なんだか体温を奪われちまうような感覚。

俺の小さな震えに気がついたのか、ポーラはすっと手を離すと一呼吸置いて話し出す。




「ここはスプラ王国の最北端」

「スプラ王国? てことは、まだ目的地のクリーブランドじゃないのかい?」

「あぁ。クリーブランドは孤島であり、我々マーメイド族が治める自治区になる。あそこへ行くにはまずここから極寒の海を渡らなければならない」



ポーラは大きな目玉をぎょろりと動かしながら流ちょうに話す。魚です。見るからに魚。魚がしゃべってます。


その時、ポーラは瞬きをしたようだが、まぶたが下から上に持ち上がった。

気味の悪い、でも、見た目で判断してはいけない。

平常心、平常心。

俺は、表情を崩さないように、できるだけ普通の顔を作ってポーラに聞いてみた。



「遠距離移動用の結界場を作れるんだったら、一気にクリーブランドまで行けばいいじゃねぇか?」

「残念ながら、遠距離移動用の結界場には入り口と出口が必要だ」

「つまり?」

「クリーブランドには遠距離移動用の結界場の出口がそもそも作られていない」

「ほぉん……ま、何でもいいが」




ポーラは俺から視線を外すと、先に進んだ。

俺はその背中についていく。後ろから見ると、まるで魚の頭をかぶった大男だ。

無口なポーラを追い、ほどなく洞窟の出口にたどり着くと、ポーラはこちらを振り返り向こうを指さした。




挿絵(By みてみん)




その方向に目をむけると雪に覆われた大地の先、小さな屋根がならぶ集落が見えた。ポーラがモゴモゴとした声で説明する。







「あれはデマルクの街。ひとまずあそこへ」

「……それにしても、紋章師が俺を含めて5人か。で、お前さんはなんの紋章師なんだ?」

「私は“(クラウン)の紋章師”だ」

「クラウンの紋章とは……珍しいな。てぇことは、精神異常系の魔術をあつかえるのか」

「ああ。どちらかというと忌み嫌われるほうの魔術。黒魔術に分類される。キミの扱う呪いの魔術と同じく、ね」

「……へぇ、なんとも奇妙な組み合わせだな……」




俺は今回の面子を、ふと頭に浮かべた。


白いローブを羽織った“時の紋章師”イダム。

時の魔術といえば、かけられた者の素早さを操る魔術。戦闘補助的な魔術だ。



赤狼獣人(レッドワーウルフ)族である“祝福の紋章師”バオ。

奴が使う祝福の魔術は回復系の魔術だ。傷の手当てや、魔力の回復など様々な治癒を行う事ができる。


三角帽子をかぶった“結界の紋章師”シュウリン。

結界の紋章師は紋章師の中でも上位の存在だ。複雑な結界を作ることで、大がかりな防御壁を作ったり、今回のような遠距離移動用の結界をつくりだしたりすることができる。かなりの“おつむ”の持ち主でないと、結界魔術は扱えない。


そして、俺のとなりにいるのが魚獣人(マーメイド)族であるポーラ。

この魚の顔をした大男は“(クラウン)の紋章師”らしい。

冠の紋章師は確か精神異常を引き起こすような攻撃や、心を操る魔術を得意とする紋章師のはず。



こんな組み合わせで、いったいどんな高位の複合魔術を実行しようってんだ。




その時、後ろから、ざざりざざりと不規則な足音がつらなって響いてきた。ついでに騒がしい話し声も。

どうやら、あいつらも到着したようだ。

俺が振り返ると、さっきの三人が周囲を物珍しそうに見回しながらこちらに歩いてくる姿が見えた。

こちらに気がついた赤狼獣人(レッドワーウルフ)族のバオが声を上げる。




「おう、キサマ、たどり着いていたのか。見当たらないもんだから、異空回廊のなかで迷子にでもなっていたかと思ったぜ」




シュウリンがたしなめるように肘でバオを小突くのが見えた。

イダムはどこかほっとしたような目つきで俺に目くばせした。なんだ、イダムの奴、不愛想な割には、心配でもしてくれていたのか。

ここでイダム株が、急上昇。


全員が洞窟の出口にそろったところで立ち止まる。

バオが目の前に広がる真っ白の大地を見渡しながら、肩をすくめた。




「ひぇっ。まるで色を失った世界だ。こんな世界の果てで生きていくだなんて、魚獣人(マーメイド)族ってのはたくましい連中だな。ちゃっちゃと仕事を片付けて、とっとと陽の当たる世界へ帰ろうぜ」

「……ま、その点は同感だ」




俺の言葉にバオが噴き出した。




「ぶっはっはっは。初めて気が合ったじゃないか、キサマ」




ポーラが一歩進み、皆を見渡し抑揚のない声でつぶやいた。




「……では、街に向かうとしよう」










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