名もなき罪人の墓(第十三章 最終話)
ミルマルばあさんの体は息を引き取ると同時に、みるみるその形を変えて、一輪のしおれた花らしきものになった。
二つの大きな葉を先端につけた、枯れた植物がベッドにちいさく横たわっている。
おそらくこれが本来の、金魂球の子球としての姿なのだろう。
俺たちはそのしおれた花に祈りを捧げ、ライラスリーの準備した小さな箱にしまい込んだ。
その後、俺とライラスリーは、数日かけてエインズ王国の中央に位置する王都に向かった。
彼女の枯れた亡骸を手に。
長旅の後、王都のはずれにある共同墓地にたどり着くと、ライラスリーの案内でとある墓標の前に立つ。
ライラスリーの話によると、その足元にある小さな十字の墓標がコポロの墓らしい。
ライラスリーは手元の木箱からミルマルばあさんのしおれた亡骸を取り出し、その十字架の少し隣に土を掘り、埋めた。そして小さな石をこんもりと盛り上がった土の上に置いた。
その小さな墓標に、ふたりで祈りをささげた。
俺の隣にじっと立ちすくんでいたライラスリーがつぶやいた。
「これで、ワシの役目も終わった……」
俺は足元の小さな墓標から、ライラスリーに目を移す。
「……なぁライラスリー。知っているかもしれないが。あのミルマルさんの屋敷に咲いている魔法植物を狙っている奴がいるぜ。たしか……匙の紋章師の……ええと、なんていったかな……」
「道具屋のハウリンじゃろ」
「そう、そう。頭のはげたデブおやじだ。まぁ、俺には関係のない話だが、あいつにミルマルさんの育てていた魔法植物を全部くれてやるのは、どうにも癪にさわる」
「そのようなことにはならんよ。あの屋敷に育っていた魔法植物はそのうち皆枯れてしまう。もともとエルフの国から持ち帰った植物ばかりで、本来はこの地では育たないものじゃからのう」
俺は首をかしげる。
「ん? じゃ、どうやって今まで育てていたんだよ」
「金魂球の影響じゃよ。あの屋敷の地中にあった金魂球からしみだしていた魔素のおかげでなんとか育っていたのだ。金魂球がかれてしまえば、その影響もなくなる。ほどなく、すべてかれてしまうじゃろう」
「そ、そうなのか?」
「ああ。金魂球は周囲の土壌に影響を及ぼすほどの強い魔素を放出する植物なのじゃよ。なにせあれを見つけたエルフの国にある“不思議の森”は、濃い魔瘴気が立ち込めているような危険な場所じゃからの」
「なるほどねぇ……ミルマルさんの屋敷の周囲は妙に花が多かったような気がしていたが、俺の気のせいでもなかったのか」
ライラスリーは「その通り」と、小さくうなずいた。
俺はふと周囲を見渡す。
ここは、王都のはずれにある森の中。
その一角に、共同墓地が設置されているのだ。
真っ青に光る空のもと、無数に並ぶ様々な墓標をみやる。
「はぁ……名もなき罪人たちの墓、か。俺もいつかこんなふうに土にかえるのかな。はーやだ、やだ。」
「なんじゃ、オヌシここに葬られるような罪人なのか?」
「……今のところは違うけどよ。いつどうなるか、だなんて誰にもわからねぇだろ。コポロのじいさんだって、別に悪い奴じゃないはずだ。しかし、禁忌を犯してしまった。そうせざるを得ない何かがあったんだろう」
「確かに……な」
「ま、そんな辛気くせぇ顔しなさんなって。あ、そうだ、リラが今度、聖都市フレイブルの商人地区でちいさなポーション屋を開く予定なんだ。よかったら顔を出してやってくれ」
「おお、聞いているよ。ピリュートが店番をやると言って張り切っておったよ」
「え? そうなのか? アイツ……頼りになるのか?」
「さぁのぉ……」
ライラスリーは、そう言うと、どことなくうれしそうな目をして、微笑んだ。
第13章 リラのポーション屋さん開店 編
完
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