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目的地 

朝めしの後、俺たちは洞窟を抜け出して、山道を下っていく。


俺の少し前を行くヴィデン。その隣につくのはリラだ。

リラは足場を気にして歩きながらも、どこか楽しそうにヴィデンに話しかけている。

リラが話しかけるたびに、ヴィデンは身振り手振りを交えて、何事かの説明をしている。




「へっ……リラの奴、随分と楽しそうだな……」




それも、そうか。

こんな風に外に連れ出すのは久しぶりだものな。


俺とリラは今、べリントン領内にある『聖都市フレイブル』というところに住んでいる。

聖都市フレイブルは、少し大きめの都市ではある。

が、実際に俺たちが住んでいる屋敷は郊外にあるのだ。ま、田園のどかな町ハズレって感じかな。


俺たちは、毎日その屋敷に訪れて来る客人たちの呪いを解くことを生業(なりわい)としている。はっきりいって、地味な仕事ばかりだ。

やれ、浮気した主人をのろってくれだの、なんだのと、痴話げんかを解決するというような仕事も多い。

今回のキメラ調査のように旅に出ることもたまにあるが、それほど多くはないのだ。


リラは毎日、俺の仕事の手伝いをしてくれているが、それ以外の時間は、街の教会にある修道院に通っている。そこにいる孤児たちの世話係というやつだ。

リラが寂しくないように、と思ってそこを紹介したものの。それでよかったのかどうか最近は少し考え直していたりもするのだ。


リラは、すでに滅びたダークエルフ族の生き残り。その身には巨大な魔力を秘めている。

俺は、それが誰かに見つかることを、恐れている。巨大な力を利用しようとする連中というのはどこにでもいるものなのだ。

しかし、リラ自身はあまりピンと来てはいないようだ。リラにとって、様々な魔術が扱えるのは当たり前なのだし、そういう世界で生きてきたのだから。




「……ふうむ。俺はあいつを、少しばかり、大事にあつかいすぎているのかもしれねぇな……反省……」




ヴィデンの話を好奇心いっぱいの目をさせながら聞いているリラの後ろ姿に、俺は考えさせられた。

リラは、街で見る時よりも、あきらかに楽しそうだ。

あんなにはしゃいでるリラを見るのは珍しい。



その時、二人が急に立ち止まった。

どうやら、その先、森が開けているようだ。

ヴィデンが振り返ると、こう告げた。




「ウル様、こちらが今回の調査地のひとつです」

「へ? そうなの?」



俺はふたりの隣まで近寄ると、先を見て足がすくんだ。

森が急に切れて青空が広がっている。そして、足元は、崖っぷちだ。

崖の下は、規則的に削られたような、広大な岩場がひろがっている。

人工的、かつ直線的な、おおきな石の広場。




「こ、ここは!?」

「ここは、かつての採石場です」

「なるほど。そういえば、聞いた事があるな。ジャワ渓谷は昔、魔鉱石がよく取れたと」

「ええ。いまは、すっかりさびれてしまいましたが……」

「で、この採石場が今回の調査地なのか?」

「はい。キメラを錬成する為には強大な魔力が必要です。必然的に、魔術陣はそれなりに大きなものになると推測されます。このジャワ渓谷近辺で、大きく平坦な地を探すとなると、山の頂上の台地か、水場などが考えられるのですが……」

「ジャワ渓谷はそう言ったものが見当たらないってわけだな」

「ええ。だから、採石場が怪しいとふんだわけです」

「なるほどねぇ……俺は、長年ここに住んでいたが、古い採石場があるなんてことはすっかり忘れてたよ」





俺たちはヴィデンの案内に続いて、採石場に降り立った。

下から見上げるとさらに圧巻だ。

天までまっすぐに伸びる、切り立った白い岩場。その時、俺はふとあの部屋の事が頭によぎった。




「……似ている」




夢の中でみる、あの”白い牢獄“を彷彿とさせる風景だ。

どこまでも続く真っ白い部屋。

いまにも、黒ローブにつつまれたヤミが出てきそうな雰囲気だ。

俺は周囲を見渡し、隣に立つヴィデンにたずねる。




「しかし、魔術陣らしきものは見当たらねぇが……」

「ですね……おそらく、あるとすれば地下採石場でしょう」

「地下もあるのか?」

「ええ。あちらに」




ヴィデンの指さす方向。

白い岩の壁にぽっかりとあいた四角くて、黒い口。

明らかに中を削りとられた、人工的な洞窟。

その正方形の穴は、なんだか、妙に浮き上がって見えた。

俺は、その穴をみつめてつぶやく。




「えぇ……あの穴に、はいんの? いまから? 三人で?」

「え、あ、まぁできれば、一緒に来ていただければとおもっていますが……無理には……」





その時、ヴィデンの向こうにいたリラが顔を出す。




「もう! ウル! ここまできて何言ってるのよ! ヴィデンさん一人で行かせる気?」

「えー、だってぇ、暗いの、怖いし」

「ヴィデンさんが灯火瓶(ともしびん)を私たちの分までもってきてくれてるっていってたでしょ」

「だってぇ、なかにキメラいるかもじゃん、でしょぉ」

「ああ、もう! じゃここで一人で待ってなさいよ! さ、いきましょヴィデンさん!」




そう言うとリラはヴィデンの手をつかんでぐいぐいと地下採石場の穴を目指してすすんでいく。

ヴィデンは「え、あ、あ、あの」と言いながら、こちらを、ちらちらと見つつも、リラに引っ張られるがまま、弱々しくついていく。





「はぁ……しょうがねぇなぁ……」




俺はふたりの後を追いかけた。



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