ルギルテのこころ①
さて、さて、ここで、いったんウルの視点からはなれます。
今回は、キメラ討伐部隊、双剣の紋章師、ルギルテの視点へと・・・・・・・
ではでは・・・・・・
ここはジャワ渓谷の近くにある、とある村。
ここをキメラ調査・討伐部隊の宿営地として使用させてもらっている。
村人達はすでに、ほとんどが別の町や村に避難済みだ。
いまから、この村の広場で緊急の昼礼があるのだ。
広場に整列したキメラ討伐部隊の前に立つのは、我々の部隊長であるティアラ様。
そして、その隣に、あのウルという男が、うすぼんやりと立っている。
最初に会った時と同じく、ボサボサの白髪頭。髭もきちんと剃っていない。
身だしなみからして全然ダメではないか。
それに、さっき村の中で女の子を見かけたが、どうやらあの屋敷にいたリラという女の子を助手と称して同行させているらしい。
こんなところに紋章師でもない娘を連れてくるなんて、危険極まりない。
この作戦を、何だと思っているのだ。
ティアラ様が頼りになる人物だ、というので副部隊長としてティアラ様に同行し、説得にまで加担したが。本当に、ここに連れてきて良かったのだろうか。
前に立つティアラ様が口を開いた。
「みな様。今回のキメラ調査・討伐部隊に加わってくださるウル様です」
一堂は一斉に敬礼をした。
私もあわてて手を額に添える。
その時、後ろから、ひそひそと誰かと誰かが会話する声が耳に入ってきた。
「……あれが10年前にキメラ討伐部隊を率いていたっていう例の……」
「ああ。冴えない外見だが、なんでも、相当な腕前らしいぜ……」
「確か……呪いの紋章師じゃなかったっけ……?」
「そうそう。伝説級の“傀儡使い”だとか言われていたはずだ。なんでも十数体の傀儡人形を同時に操るとか……」
「うっそでぇ……そんなのただのうわさ、だろ?」
「かもな、もう10年も前の話だしな……」
そう。
その噂は私も聞いた事がある。
マヌル領宮廷魔術騎士団に入った者ならば、一度は聞くであろう、うわさ話のひとつ。
しかし、噂話など尾ひれがつくもの。ありもしない話がやがて真実として語り継がれることだってあり得るのだから。伝説はあくまでも伝説、現実とは限らないのだから。
ウルは、のらりくらりと挨拶っぽい事を述べたかと思うと、すぐに脇に引っ込んだ。
その後、なんだか慌てたようにティアラ様が話を締めくくる。
いちいち、ティアラ様の手を煩わせる男だ。
ティアラ様も、一体あの男のどこがいいというのだ。
なんだか、あの男がティアラ様のそばに来ているというだけで、どうにも落ち着かない。
「……はぁ、いったい、なんなんだ」
思わずこぼれた私の言葉に、隣にいた部隊員のザイルが反応する。
「どうしたんだ、ルギルテ、なんだか憂鬱そうな顔をして」
「別に、何でもないさ」
「それにしても、あのおっさんは大丈夫なのかよ……」
私はすこしうつむきがちに話す。
「……大丈夫なものか、足手まといになるに決まっている」
「しかし、ティアラ様が連れてきた人物だろ」
「あの男がキメラの討伐部隊だったのはもう10年も前の話だ。あの当時のキメラより、今回のキメラの方が数段強いといわれているんだから、役に立つはずがない」
「ほっ……いつも冷静なオマエが、いやに気色ばんでいるな」
当然だ。愛する人のとなりに、あんな奴が金魚の糞のようにくっついているだなんて気が気じゃない。
などとは、口が裂けても言えない。
その言葉のかわりに、ふたたび重いため息をついた。
「ふぅ……」
ティアラ様の礼と共に、緊急の昼礼が終わる。
いまから、昼食の時間だ。