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忘却の魔術★



さて、ここからはあらたなお話の第二章です!


良ければどうぞ!





 珍しい。

 この俺なんかに荷物が届くだなんて。

 俺は両の手の中におさまる程度のこじんまりした茶色の麻袋を見つめていた。



 俺は”呪いの紋章師”ウル。

 今はわけあって、人里離れた谷奥の小屋で気ままな一人ぐらしを続けている。

 生業はいわゆる”解呪師”とでもいうのかな。


 依頼があれば、時々は呪いを解いてやったりもする。しっかりと報酬は頂くが。

 あとは、呪具を集めるのが好きな呪具コレクターでもある。


 そんな俺にいったいぜんたい誰が荷物なんぞを送りつけるのか。

 


(不幸の手紙だったらどうしよう)



 俺は荷物を見つめ、小屋の入り口で立ち尽くしていた。


 目の前にいる、配達人のベルアミがまじまじとこちらに視線を向けてくる。

 べルアミはこのあたりの村々を回り、荷物や手紙の集配を行っている細身の男。


 ベルアミは突然、ニカっとさわやかに笑った。歯抜けの口から、かすれた声を放つ。



「ウルのだんな。アンタに荷物を届けるなんて何か月ぶりですかねぇ」

「だな。お前さんの顔を見るのも久しぶりだ……なんかお前さん、急に髪うすくなってるのな」

「こ、この人! おれが一番気にしてること言った! 言っちゃった! そんなのお互い様! ……でもないですね、ドふさですね、羨ましい」



 俺は白銀の髪に手ぐしを通す。



「そうか?」

「この人わかって言ってる! わかってて言ってる!」

「わりぃわりぃ。ま、帰り道は気をつけてな。いまの季節、このあたりは大毛虫(ギガントワーム)が良くでるからよ」

「誰にいってんでさねぇ、ウルのだんな。おれは”弓の紋章師”ですぜ? ふぇふぇふぇ」




挿絵(By みてみん)




 ベルアミは奇妙な笑い声をあげながら、右手をひょいと背中に回し、肩ごしから後ろにひっかけていた弓の弦をびぃんと鳴らした。







 ベルアミの背中を見送ってから俺は部屋にもどる。



「弓の紋章師でありながら、荷物の集配人とはアイツも物好きな奴だな……」



 ただ、ベルアミが言うには”紋章”と関係のない生き方をしている奴は意外とたくさんいるそうだ。

 俺はさっそく今受けとった麻袋をテーブルに置いて、紐をほどいた。

 中身を取り出す。それは小さな衣類だった。薄い赤に染められた小さなドレス。


 胸元はひらひらと花びらのようにかわしらしく波打っている。

 腰のあたりには細かな花の刺繍が縫い込まれているようだ。

 これは見た感じ、アネモネの花。俺は衣類と一緒に入っていた手紙を開いた。

 軽く目を通す。




「こりゃ……おどろいた」




 手紙と荷物の送り主はリゼだった。

 少し前に俺が呪いを解いてやったリゼ・ステインバード。

 今はランカとどこかで暮らしているはずだが。


 手紙には簡単な挨拶、そしてこの服はキャンディにぜひ渡してほしいと記されていた。

 手紙によるとリゼはどうやら刺繍が得意らしい。

 俺はさっそく部屋のどこかにいるであろうキャンディに声をかけた。




「おい、キャンディ! どこだ! キャ」

「ここよ!」

「きゃあああああ!」



 俺は足をはね上げて飛びのいた。

 俺の足元には、いつのまにか黒いウサギのぬいぐるみがいる。

 キャンディは俺の靴を伝い、器用につつつと右足からよじ登り、あっという間に俺の頭にのった。




「朝っぱらから叫ばないで。うっさいな。あら、綺麗なドレス! それってもしかして! もしかする?」

「これが俺のものに見えるか? どう考えてもお前のだろ」

「キー!! うれしい! うれしい!」

「おい、頭の上でさわぐな、リゼが作ってくれたんだ。大事に着ろよ」

「リゼ? リゼって誰よ」

「ったく、何言ってんだおまえは……リゼは、ステインバード商団の、ほら、にせものの、ほれ、あれのそれだ、もう説明が面倒だ」

「誰でもいいから、はやくドレスちょうだい」





 キャンデイはそういうと俺の腕を階段のようにかけおりて、ドレスを奪い取りテーブルに飛び乗った。

 よほど嬉しかったのかドレスのまわりでぴょんぴょん飛びはねている。

 こういう時は実にウサギっぽい。

 コイツの正体は伝説の種族ダークエルフの少女。

 こいつはどういういきさつか知らないが、ウサギのぬいぐるみに魂を封じ込められているのだ。




「そうやって、飛び跳ねてるとダークエルフもただのウサギにみえるな」

「ダークエルフ? 何言ってんのよ、アンタ」

「おい、おまえ……?」



 妙だ。さっきから冗談を言っているようにも聞こえない。

 俺はキャンディをじっと見つめる。聞いてみた。




「キャンディ……ランカを覚えているか?」

「ランカ? さぁ知らない名前ね」

「マルコは?」

「何よさっきから。どうでもいいでしょ! そんな事よりドレス、ドレス!」




(コイツ、本当に覚えていないのか)



 もしかすると忘却の魔術かなにかをかけられているのかもしれない。

 でも、俺の事は覚えている。

 俺は毎日一緒にいるからなんとか覚えているという事だろうか。


 だとすると数日も会わない日が続けば、コイツは俺の事すら忘れちまうのかもしれない。

 コイツは昔”自分は数百年は生きている”とかなんとか言っていたが、その話も怪しくなってきたな。

 なんだかすこしキャンディとの距離が遠ざかってしまったような気分だ。







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