ステータスオープン!
ハルエリーゼは、手元の水晶に手をかざし宙に浮かぶ映像をさっと切り替える。
次に浮かんだのは、分厚い本の表紙に描かれた、誰かの姿。
そしてその周りには、様々な表記が並んでいる。
「ここに浮かんでいるのがステータス表の見本だ」
ハルエリーゼは、つかつかとその映像の前に回り込み、各部を指さしていく。
「その人物の名前から始まり、紋章が何か、扱える武器や魔術の種類、そして、大まかな魔力量などを記す欄がある。後で君たちにもこれを各自で作成してもらうつもりだ。さて、ここで一つ質問だが、なぜこのようなステータス表を作るのか、わかるかね、リリカ君?」
突然、名を呼ばれたリリカは、慌てる風でもなく少し考えた後、口を開いた。
「はい、ええと……自分の能力を知り、チームでどのような行動をとるかを考える為……でしょうか?」
ハルエリーゼはうなずいて補足する。
「まぁ大体は合っているが……厳密にいえば、少し違う。このステータス表は自分の為ではなく、仲間の為につくるものだ。仲間たちに自分の能力を知ってもらう事で、チーム内でみながどう振るまえばいいのかの参考にしてもらう」
「なるほど……連携の為ということですね」
「その通り。仲間がどのような性質の持ち主か、どのような魔術を扱えるのか、それを互いに知ることによる相乗効果の発揮が期待できる。それにより、そのチームの質が上がるのだ」
俺は目の前にうかぶステータス表の見本を隅々まで眺める。
武器の項目、その横には、扱える魔術の項目がズラリと並んでいる。
一体いくつあるのやら。
それに比べて、俺が今あつかえる呪いの魔術と言えば、3つしかないってのに。
俺が今扱える3つの呪いの魔術。
分身を造り上げて、それをあやつる“傀儡人形”。
黒い鎖を発生させ、相手に巻きけて足止めをする“呪いの鎖”。
相手を一定時間眠らせて悪夢に引きずり込む“悪夢の渦”
我ながら、とっても心もとない。
俺は隣のシールズに少し肩を寄せて聞く。
「……おい、シールズ。いまお前があつかえる盾の魔術って、何個あるんだ?」
「……いまのところ、5つくらいかな。でも、言ってしまえば、5種類の盾が作れるってだけだから。いろんなことができるわけじゃないよ」
「ほ~ん……」
盾の魔術は防御系だ。もともと、良くも悪くも防御に特化しているという魔術だし、とてもわかりやすい。それは、チームに入った場合、その役割がとても明確になるという事でもある。
それにくらべて、俺の扱う呪いの魔術は支援系に分類されている。
相手の動きを止めたり、眠らせたりと、言ってしまえば地味な攻撃補助的な魔術が多い。
チームでの立ち居振る舞いは、正直、難しい気がする。
それに、俺は今まで傀儡人形の訓練ばかりを集中しておこなってしまっていた。魔術の種類を増やす事なんて、まるで考えもしていなかったのだ。
俺は小さくため息をついた。
そんな俺の心の揺れが伝わってしまったのか。
ハルエリーゼが不意に俺の名を呼んだ。
「ウル君。何か不安なことが?」
「え、あ、は、はい。あのですねぇ……」
「いってみたまえ」
「はい。ちょっと心配というかまだ、3つしか扱える魔術がないので……」
「なるほど、しかし、魔術の数はさほど心配はいらない」
「え? そうなんですか?」
ハルエリーゼは目の前に浮かんでいたステータス表の見本を消した。
そして俺に向き直る。
「ウル君。一度の戦闘に使う魔術なんて言うのは、せいぜい2、3種類だ。様々な魔術を扱えるよりは、何か一つに特化しておいたほうが、良いという考え方もある。今、キミが一番時間を割いて訓練している魔術は?」
「はい。傀儡人形です」
「なるほど。非常に貴重な魔術だ。偵察や潜入につかえる。それだけでもチーム内で非常に重要な役割を担えるだろう」
「は、はい、ありがとうございます」
俺を安心させるためなのか、それとも本心なのか。
ハルエリーゼはそう言うと、次の話に移った。
俺達はその夜遅くまで、ハルエリーゼの話に聞き入った。
次の日は早起きが必要だってのに。