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紋章師の責任っておもいんですか


ファイリアスリーダー(・・・・)に続き、俺たちは円形講堂に足を踏み入れる。


かすかな明かりが灯る、ガランとした円形堂内。


薄暗く、静まりかえった講堂内の中央。

その壇上には、エルフ族の宮廷魔術騎士団員、ハルエリーゼが立っていた。

ハルエリーゼは俺たちを見ると、何も言わずに、目線で近くの席に座るよう促した。

俺たちは壇上から一番近い席に横並びに腰かける。


ハルエリーゼはそんな俺たちを順に眺めると、小さくうなずいた。




「キミたちの勇気に感謝する」




そう言うとハルエリーゼは改めて俺たちの作戦への参加有無を確認する。





「志願者はその意を示せ」




ハルエリーゼの問いかけに、みなが一斉に立ち上がり、敬礼で意志を示した。

ハルエリーゼは満足げにうなずいた。




「よろしい。では、明日、モモロの町へ出発する。早朝、太陽が昇る前に」




あまりにも急な話に、皆がざわつき、立ったまま、互いの顔を見合わせた。

まさか、そんなにいきなり出発するとはだれもが思っていなかっただろう。

俺だってこんなに急だなんて思ってもみなかった。

ハルエリーゼは、矢継ぎ早に話を続ける。




「では次の話に進む。みな腰かけてくれ」




みな、目を泳がせながら、何も言わず再び腰かける。

俺の隣のシールズがまん丸の目をひんむいてこちらを向いた。




「……ウル、早朝に出発ってことはさ……まさか、朝ごはん抜きってこと?」

「そこかい……お前は食い物の事しか頭にねーのか」




それにしても、ハルエリーゼに聞きたいことが山積みすぎて、何を聞けばいいのかすらわからないという感じだ。

ただ、今は、流れに身を任せるしかない。

ここにきて、俺の中で急に不安が大きくなり始める。

あまりにも速い展開を目の当たりにして、はじめて実感が湧いてきたのだ。

これは授業などではなく、実際の作戦なのだという実感が。

みなも俺と同じ気持ちなのか、ピンと張りつめたような空気があちこちから漂いはじめた。


その時、一番左端に座っていたファイリアスが手を挙げた。

ハルエリーゼが視線で発言を促すとファイリアスは立ち上がり話しはじめた。



「ハルエリーゼさん。今回の作戦は俺達5人でひとチームですよね」

「いかにも。今から、リーダーを決めてもらおうかと思っている……が、その感じだと、ファイリアス君、キミがリーダーかな」

「はい。もちろん、俺がリーダーになります……って、え? あれ? 俺、あなたにまだ名前も……」

「キミたちの事は、すでにある程度承知している。キミたちはこの作戦の間は“ファイリアス班”となる。いいね」

「あ、は、はい」



ハルエリーゼのペースにのまれたのか、口達者なはずのファイリアスが珍しく黙り込み、腰を下ろした。

次に、ハルエリーゼは、俺たちの紋章と名前を当然のように言い当てていく。

言い終わると、ハルエリーゼは、そのまま次へと話を続ける。




「さて、キミたちはいままで魔術の訓練を受けてきた。当然のことながら、キミたちは紋章師同士での訓練を行ってきたはずだ」




確かに。俺たちは、この養成院にはいってから、様々な訓練を受けてきたが、ともに訓練を受けてきた相手はすべて自分と同じく紋章師しかいなかった。ここに居並ぶ俺達5人もみな魔術が扱える紋章師なのだから。


ハルエリーゼは話す。



「キミたちが今回参加する作戦においては、キミたちは“紋章師以外の普通の兵士達”とも行動を共にすることになる。その時、キミたちは思い知るだろう。紋章師となった者の“責務の重さ”というやつを」




責務の重さ。何て言われても、実感など全くわかない。

その時、ハルエリーゼは再び胸元のポケットから水晶を取り出した。

何事かをつぶやき、手をかざすと俺たちの目の前に薄く光る映像が浮かび上がる。

俺はそれを見上げて、つぶやく。




「これは……宮廷魔術騎士団の組織図?」




一番上から分岐して、枝分かれした樹状(ツリー)が浮かんでいる。

ハルエリーゼは、その映像を手で指し示しながら、説明を続ける。




「宮廷魔術騎士団ではそのチームの編成人数ごとにより、呼称がわけられる。キミたちは紋章師5人による編成となるため……この組織図の一番下の“班”となる。班は、通常その班のリーダーの名が冠せられる。つまり、さっき言ったように、キミたちは“ファイリアス班”となるわけだ」




ハルエリーゼは俺たちに言い聞かせるように、言葉をつないでいく。




「宮廷魔術騎士団の中には、当然のごとく、魔術が扱えない兵士たちも含まれている。というより、この国に仕える兵士総数からすれば、魔術を扱える紋章師の数は一割にも満たないのが実情なのだ、そして……」




ハルエリーゼが水晶に手をかざすたび、目の前の映像が切り替わる。

何かの比較図のようだが。




「この図は、紋章師とそうでない兵士たちの比較だ。見てわかる通り、紋章師5人の“班”は……通常の兵士の“小隊”(~60名)または“中隊”(~250名)に匹敵するといわれている」




はりつめていた静寂が、ここでついに、驚きとともに破られた。

みなが口々に、え、とか、マジかよ、と声を上げていた。

俺自身も、意図せず言葉が口からこぼれた。




「そんなに戦力差が!?」




俺たちの反応を知っていたかのように、ハルエリーゼは冷静に話続ける。




「これが紋章を授かった者の“責務の重さ”というやつだ。キミたちは守られる存在ではない。キミたち自身が守護者となる宿命を背負っている。そのことを肝に銘じてほしい。今回の作戦でそのことを学んでほしいのだ」




俺たち自身が守護者となる。

そんなこと、考えたこともなかったし、いまだってそんな自覚は、全然ない。



ハルエリーゼは組織図の映像を消すと次にこう言った。




「さて、次はキミたちの能力値(ステータス)表について簡単な説明をおこなう。頭を整理して、ついてきてくれたまえよ」



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