俺たちのリーダー登場 その名はファイリアス
説明会の後、時間的な猶予が与えられる。
この特別作戦に参加するのかどうか、最終判断をするための時間だ。
ゾロゾロと出口に向かう生徒達に混ざり、俺たちも円形講堂の外に出た。
太陽は真上から少し、西に傾いていた。
先頭を歩いていたリリカか振りむきざま、皆を見回して皮肉たっぷりの声で言う。
「と~んだ時間の無駄だったわね。バルトロス以外のみんな、お疲れさま」
俺とシールズが同時に「おつかれさま」と言いかけた、その時。
バルトロスが立ち止まり、俺たちを引き留めた。
「ちょっと、待ってくれ」
俺たちが足を止めると、バルトロスは唇を噛んで続ける。
「俺は、この作戦にどうしても参加したい。だから、もう一人探してくる。みんな、それまで待ってくれないか」
立ち止まったバルトロスのまなざしから、真剣さが伝わる。
その目は、どこか悲壮感すら感じさせるほどにうるんでいた。
チームメイトが足りないんじゃ、参加はないかな、とおもっていた矢先。
ここまで真剣な顔をされるとさすがに無下にはできない気もする。
俺は、リリカとシールズの顔にちらりと目をやる。しかし、二人とも、互いに目を合わせるだけで、何も言いそうにない。俺はみなのかわりに、バルトロスに聞いてみた。
「もう一人探すっていったって……あては?」
「さっきの説明会で、何人かの生徒たちは参加をやめるだろう。いや、おそらくほとんどの生徒達は不参加になりそうだった」
「たしかに……あの不気味なキメラの姿を見たら、気持ちが変わる奴がほとんどだろうよ」
「だろ? だから、さっきの生徒達の中でも参加する奴としない奴が出てくるはずだ。その中であぶれた奴をこのチームに引き入れようと思うんだけど、どうだろう」
「なるほどね。でも、そんなにうまくいくのかよ……ま、俺は別にいいけど。シールズとリリカはどう?」
俺が二人に目を向けると、二人は困ったような顔を見せつつバルトロスの願いを聞き入れた。なんだかんだ、これだけ真剣に頼んでくるバルトロスを見ると、どうにも断り切れないのは、みな同じのようだった。
さっきの説明会によると、特別作戦の志願者締め切り期限は、今日の夕刻まで。
夕刻にもう一度、最終的な志願者たちが、この円形講堂に集まることになっている。
そこでさらに、詳しい説明を聞くことになるのだ。
今日の夕刻までに、もしもバルトロスがもう一人のチームメイトを見つけることができれば、俺たちはこの特別作戦に参加することとなる。
見つけられなければ、なし、だ。
俺たちは一旦、それぞれの授業を受けるためにその場を後にした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その日一日の授業が終わった日暮れ時。
俺たちはもう一度円形講堂の前に集まった。
俺とシールズ、リリカが肩を並べて待っていると、こちらに向かって歩いてくるバルトロスの姿。
その隣にもう一人、こちらに向かって歩いてくる生徒がいる。
遠目からでもわかる。
そいつは、俺もシールズもリリカも、みんなが知っているやつだった。
リリカが、あきれた声で言葉をこぼす。
「……まったく……バルトロスって、ほんっとに、しんじらんない……」
バルトロスの隣の生徒はこちらを見るなり、トレードマークともいえる、くせのある赤毛をかきあげて高らかに笑った。
「はっはっは! すまんな、お前ら。随分、待たせたようだな。このファイリアス様がお前たちのチームのリーダーとして来てやったんだぞ、感謝しろよ。それにしても、この俺をリーダーとして誘うだなんて、意外とよくわかってるじゃないか。はっはっは!」
俺たちの目の前に現れたのは、火の紋章師、ファイリアス・マヌル。
自称、大貴族マヌル家一族きってのキレ者、らしい。
ファイリアスには、いままで散々な目にあわされてきたってのに、いったい何を考えているんだバルトロスは。
シールズが青ざめた顔で俺を見る。
「……どどど、どうして……ファイリアスが……それに、リーダーとかなんとか言っているんだけど、どういう事なの?」
「……だいたい想像はつく。たぶんバルトロスがそういう条件であいつをその気にさせて誘い込んだんだろ……そうとしか考えられん」
「……なんだよそれ、勘弁してよ、ボク、参加するのやめようかな……」
「シールズ、いまさらそれは無理だぞ……」
「はぁ……よりにもよって……」
ファイリアスは悠然と俺たちの間を割ってザクザクと突き進み、意気揚々と円形講堂に向かっていく。その背中を見送りながら、俺はバルトロスにたずねる。
「バルトロス、一応聞くが、……ファイリアスが俺たちのチームのリーダーなんだよな」
「ああ」
「一応、聞くが、俺たちがファイリアスに来てほしいと望んでんだよな」
「ああ、そういう事にしている。そう言わないと、あいつは応じないだろうから」
「一応、聞くが、他に候補者がいなかったんだよな」
「ああ、ファイリアス以外、全員が不参加を選んだようだ」
「……てことは……この作戦に参加するのは、最終的に、俺達5人、だけ?」
「の、ようだ」
なんてこった。
シールズの言う通り、最初から断っておけばよかったのかもしれない。
背をむけて歩いていたファイリアスが、円形講堂の入り口前でふいにこちらを振り返る。
そして叫んだ。
「さっさとこいよ、平民ども!」




