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キャンディの正体(一章最終話)★

 俺はそっと”魂の鏡”をリゼに手渡す。

 リゼは不安そうな手で鏡を受け取った。

 まるで宝物でも包むように。


 俺は信じたい。

 人の心というやつを。

 リゼ・ステインバードは自分の身に降りかかった不幸がきっかけで呪いに関わってしまった。

 だからって悪人ってわけじゃないはずだ。

 誰だって、きっかけさえあれば、困難を乗り越える事ができる。



 リゼはゆっくりと鏡を左の手のひらに乗せ、震える右手をふたに添える。

 すっと鏡を開くと、自分の顔の前にもってきた。


 俺は固唾をのんで見守った。

 鏡を見つめるリゼの表情は見えない。白い仮面の目の部分に開けられたほんのちいさな隙間。

 リゼの目が揺れるのが見えた。


 リゼは鏡から目をそらして、すこしうつむいた。一体何が映ったのか。

 リゼは震える声で俺に聞く。




「この鏡は……ほんとうに、わたしの”本当の姿”を映しだすの?」

「ああ、本物のはずだ」

「お願い。ランカ……一緒に見てくれる?」




 リゼはランカに伝えた。

 ランカは不安げに眉を寄せる。そして、リゼの横からゆっくりと鏡をのぞき込んだ。

 ランカの目の中に不安と期待が入り混じる。

 つぎ、ランカの目は大きく見開かれた。


 そして、彼は、ぽつりとつぶやいた。







「……綺麗だ。リゼ。世界中の誰よりも」












 その時、その『魂の鏡』に何が映っていたのか、俺は見ていない。

 ランカはリゼの肩にそっと手を伸ばし、ほんの少しだけ、抱き寄せた。

 俺は、二人に羊皮紙で出来たヒトガタを見せた。




「これが、あの指輪にかけられていた呪いだ。今はここに移されている」




 うつむいてしまったリゼの代わりにランカが今日、はじめて俺に口を開く。




「それを、どうされるのですか……?」

「これが儀式の最後。このヒトガタを破り捨てて、川に流す。それでおしまい。お前さんたちの呪いは、ここですべて消え去る。これで呪術者の討伐は終了さ」

「……なぜ、我々を助けてくれるのですか?」

「助ける? 勘違いしちゃいけねぇな。俺は自分の仕事をこなしただけだよ」




 俺はそう言うと川べりに歩み寄り、底まで見通せる透き通った水の流れをみつめる。

 清廉なる祈りを込めて、そのヒトガタをびりりと四つに破いた。

 膝をついて、それを水面にのせる。


 手を離した途端、その四つの紙切れはあてどなく、輝く流れのままに消えていく。

 さらさらと、心地いい水の調べと共に。 

 俺たちはそれを、遠くまで見送った。





 俺はその村で、リゼとランカに多少の路銀を渡してわかれた。

 彼らならどこででもうまくやっていくだろう。


 騎兵隊たちにも別れを告げる。

 連中は、予想外に早く解放されたことがよほどうれしかったのか、何故か俺に抱き着いてきやがった。


 俺は皆と別れて、村を後にした。

 もう彼らに会うことも無いだろう。

 ま、呪いの紋章師になんて会わない方がいいだろ。










 皆と別れ、俺とキャンディだけになった。

 そんな気楽な数日の旅のあと、ようやくたどり着いた愛しの我が家。


 俺は新たに手に入れた呪具『魂の鏡』を洞窟の保管庫にしまおうとドクロ洞窟に向かった。

 じきに洞窟につくというところで、胸ポケットのキャンディが起きた。

 キャンディと話すうち、キャンディは突然思い出したように声を上げる。



「……あ、そうだ! ね、あの鏡、アタシも見たい!」

「はぁ? 俺は絶対にお勧めしないね。お前よ、もしバケモンみたいな自分の姿が映ったかなりショックを受けるぞ。俺は絶対に見ない」

「いいから見せて」

「本当にいいのか? あとで後悔したとかいうなよ?」

「いわないわよ」




 俺は仕方なく、あぜ道の横にあった倒木に腰かけて背中の荷袋から『魂の鏡』を引っ張り出した。

 キャンディはぴょこんと大地に降り立ってくるくる踊っている。

 いつも思うが、なんなんだこのみょうちくりんな踊りは。雨ごいかよ。

 俺はキャンディの前に鏡を置くと、一気にフタを開く。

 キャンディは軽いノリで鏡をのぞき込む。


 俺はその反応をじっと見ていたが、キャンディは何も言わない。

 珍しく反応がうすい。いつも事あるごとにぎゃーぎゃー騒ぐのに。

 もしかすると、とんでもなく恐ろしい顔が見えたのかもしれない。

 俺は恐る恐る聞いてみた。




「おい、大丈夫か?」

「これ、なに? これアタシの顔なの?」

「何が映ってるんだよ」

「やっぱ、アタシ、スンごい美少女みたいよ」



 キャンディは鏡を見てうっとりした声を上げる。


「う、嘘つけ」

「いや、ほんとだってば。見てみなさいよ」

「見たくない、もしも自分が映り込んだらこわすぎる」

「本当に美少女よ、それに巨乳よ」

「きょ、キョヌー(巨乳)?」




 ぐ、キャンディさん、俺の扱い方に慣れておられる。

 この鏡には顔しか映らんはずだが。み、見たい。




「少しくらいなら見ていいか、そこから動くなよ」




 俺は地面に置かれ開かれた鏡の方に回り込んで、しゃがむ、というよりほぼ寝そべる。

 そして、顔を手で覆い隠し徐々に顔をずらしていった。指を開き薄くまぶたを構える。

 鏡に何か映っている。

 次第に見えた。そこにはうさぎではなく本当に少女の顔が映っていた。




「え? お前……まじか」




 俺はつい声が出た。

 この容姿。ばかな。

 鏡に映っていたのは物憂げな美少女だった。流れるような白銀の髪、金色に輝く両瞳はぱちりと大きい。

 そして額の横を少し越えるほどの尖った耳。黒くぼんやりと光る素肌にちいさく結ばれた薄紅のくちびる。


 間違いない。これは古い呪術書にもよく出てくる”漆闇妖精(ダークエルフ)”の特徴だ。


 いや、よく出てくるもなにも。

 ダークエルフは、数々の魔術や呪文を体系化し膨大な魔術書をしるし今に遺したと言わている伝説の魔術師の種族なのだ。


 しかし彼らは、数百年前に突如絶滅したといわれている。

 そんな伝説のダークエルフがキャンディの正体だっていうのか。

 こいつはいったい、どういうことだ。






挿絵(By みてみん)









第一章 乙女ごろしの指輪編   完






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