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混合生物 = キメラ (挿絵 苦手な人は閲覧注意してください)



「今回の作戦は、ここ、マヌル紋章師養成から南方に位置する、ルテラリア渓谷にて行われる」



ルテラリア渓谷。聞いた事はあるが、俺にはあまりピンとこない地名だ。

ハルエリーゼはよく通る声で続ける。



「最近、ルテラリア渓谷の周辺で、正体不明の魔物が多数確認されている」




突如として、講堂内に不穏な空気がただよう。

みな、不安げに、お互いの顔を見合わせたり、こそこそと口元を押さえて、何かを話している。

ま、気持ちはわかる。

ここにいるのは俺たちも含めてみな新入生たちだ。

紋章を授かり魔術を扱う事ができるといったって、まだまだ魔術初心者であることにかわりはないのだ。自分の魔術の実力を試したいという気持ちもあるけれど、あまりにも危険な場所へ行くとなるとしり込みしたくもなる。

その場の空気を悟ったのかハルエリーゼはこころなしか声を和らげて続ける。




「ただ、安心してくれ。その正体不明の魔物に関しては、我が宮廷魔術騎士団が対処する。君たちに任せるのは、その後方部隊の支援だ」



ハルエリーゼはおもむろに内ポケットに手を差し込むと、なにかをとりだす。

その手には、こぶりな水晶。

ハルエリーゼは何事かをつぶやくと、その水晶に手をかざした。

すると、その水晶がぶわっと上に向かって光を放ち、そこに巨大な地図が浮かび上がった。

神々しく光る地図、そこには地名や、目印が古代文字で記されている。




「ここにいる皆ならば、この地図に記されている、古代文字は読めるだろうね。では……この作戦を具体的に説明する。この地図の、赤い文字でしるされている、モモロの町からルテラリア渓谷入り口付近まで。君たちには、その間の貨物部隊の護衛を行ってもらう。護衛は渓谷の入り口周辺あたりまでとなるが、その近辺にも魔物が出現する可能性はある」




講堂内は静まり返り、生徒たちは、みな一心に説明を聞いている。

その後、細かな日程と必要な物品などの説明がなされた。

すると、ハルエリーゼは空中に浮かんでいた地図を消した。




「さて、ここまでで、何か質問はあるかな?」




その時、少し前の方の席に座っていた生徒が立ち上がった。

後ろ姿ではよくわからないが、どうやら女生徒のようだ。




「あのう、ハルエリーゼ様。どうしてこの作戦を養成院の生徒達に依頼したのでしょうか?」




ハルエリーゼはその生徒に顔を向けると、大きくうなずいた。




「我々がこの作戦を養成院の生徒達に依頼した理由についてだが……キミたちに経験を積んでもらいたいというのがまず第一、それともう一つ、現在ルテラリア渓谷の魔物討伐に宮廷魔術騎士団の人員が想定以上に割かれているのだ。護衛部隊の人員不足が発生しているということも理由の一つだ」




その生徒がさらに問いを続ける。




「ルテラリア渓谷にいる正体不明の魔物が……それだけ危険な存在ってことですか?」




ハルエリーゼは渋い顔をした。どうやら図星のようだ。




「安全だ、とは言い切れないのが正直なところだ」




曖昧な言い方。

その女生徒は、その説明に納得したのかすっと腰を下ろした。

座った後、隣の生徒と何事かひそひそと相談している。

ハルエリーゼは「ほかに質問はあるかな」と再び周りを見渡した。




俺は隣に居並ぶ三人に顔を向けた。




「何か聞いておくこととか、あるか?」




三人は互いの顔を見つめ合う。

すると、バルトロスがおもむろに手を挙げて立ち上がった。



こちらに気がついたハルエリーゼは手をさし「質問をどうぞ」と言った。

バルトロスが息を吸い込み大きめの声で問いかける。




「できれば、その正体不明の魔物の事を、わかる範囲で教えてほしいのですが」




ハルエリーゼは小さくうなずき、こういった。




「いい質問だな。みんな、これをみて、参加するかどうかを決めたまえ。我々はこれ(・・)を、混合生物(キメラ)と呼んでいる」




ハルエリーゼは、再び手元にあった水晶に何事か呟く。

水晶から煙のような光が立ち込め、彼の頭上に大きな何かを形作る。

俺たちの目の前にその姿が映し出された瞬間、あちこちから黄色い悲鳴が上がった。

みな口々に叫ぶ。



「うわっ! なんだこれ」

「きゃーーー!」

「むりむりむりむり」



そんな声があちこちから聞こえてくる。




俺はゆっくりとそれを見つめる。

どうやら、これが例の魔物らしい。






(  ↓   目玉の魔物イラスト 閲覧注意)







挿絵(By みてみん)







見開かれた目玉がぎょろりと光る。

うねうねと動く無数のあしだか触手だか。

どう表現すればいいのか、いろいろな生き物を無理やりにごちゃまぜにして団子にしたような。

なんだか、俺たちを不愉快にさせる事を目的として生まれたような。

そんな、いびつさを感じる生き物だ。




この魔物の姿が浮かんで以降、講堂内の雰囲気が一気に悪くなる。

おそらくこれを見た生徒のほとんどは、この作戦への参加を辞退するだろう。

そう確信できるほどに、その魔物の姿は異様だった。



その時、バルトロスの口から驚くべき言葉が飛び出す。




「……ふっ、こいつは……腕がなるぜ……」




俺たちは全員が唖然とし、バルトロスを見上げた。

しかしバルトロスはひるむどころか、その魔物を睨みつけてこうつぶやいた。



「こ、これが……武者震いってやつか……」




それを見ていたシールズが、俺にささやく。




「……ウル……バルトロスって、思った以上に変な奴だよね……」

「まぁな。だが、俺たちの場合、まず5人編成のチームじゃないって事で、作戦から外される可能性がおおきいんだけどな……」

「あ、そっか……」




ほどなく、質疑応答の時間が終わり、説明会はお開きとなった。




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