喧嘩はやめてねっ
すみません!
一度投稿したものを消してしまいました。
改めて二度目の投稿です!
昼食終えた俺とシールズは、午後からの“特別作戦”の説明を聞くために、円形講堂に向かった。
このまえの魔力測定会もここで行われたっけ。
扉をくぐると、講堂の中央を囲むように階段状になっている座席がならぶ。
少し後ろの方の席。こちらに手を振る生徒がいる。
剣の紋章師バルトロスと、雷の紋章師リリカだ。
俺とシールズはふたりの隣の席に向かい、連なって座る。
これから、特別作戦の説明が始まるのだ。
ふいっと周囲を見渡すと、俺たちと同じく新入生らしき人影が、ちらほらと目に入る。
しかし、その数はそう多くはない。
空きだらけの歯抜けの席に、数名ずつが固まって座っているという程度。
彼ら、彼女らは俺たちと同じく、この特別作戦に志願した勇気ある生徒達。
皆、初めての事だけに少し緊張した面持ちだ。
その時、隣のシールズが不安げに口を開いた。
「なんだか、志願した生徒って意外と少ないんだね。ボク、もっといっぱい居るのかとおもってたのに……これだったら無理に志願しなくてもよかったんじゃ……」
その言葉に、この作戦に志願しようと言い出したバルトロスがにゅっと顔を出す。
聞き捨てならないという表情だ。バルトロスは野太い声で話す。
「シールズ。何を言っている。宮廷魔術騎士団の特別作戦に参加できるだなんて、そうそうないチャンスだぞ」
「そりゃそうだけどさ。僕たちはまだ、魔術を習ったばかりの新入生なんだし、ボクたちなんか、役に立つのかな」
「そんな弱気でどうする。お前、いまさら抜けるだなんていうなよな」
「別に、言いやしないけどさ。でも、なんだかちょっと心配だなぁ……」
バルトロスの後ろに座っていたリリカが、たしなめるように口を開いた。
「ちょっと、バルトロス。この特別作戦は、強制参加じゃないのよ。嫌がる人を無理やり参加させるのは反対よ」
バルトロスが振り返りそれに答える。
「いわれなくとも、わかっている、リリカ。しかし、この作戦はチーム参加だ。盾の紋章師であるシールズが絶対に必要なんだ。防御魔術のエキスパートがいるのといないのではチーム編成の完成度が全くかわってくる」
「それはそうだけど、あくまでもシールズの意志の方を尊重しないと」
「……まったく、どいつもこいつも甘いな。宮廷魔術騎士団に入ったら、命令は絶対なんだぞ。本人の意志だとか、志願だとか、そんな悠長な事を言っていられると思うのか?」
「それは、宮廷魔術騎士団に入ってからすればいい話でしょ。だいたいねぇ、あなたはいつも強引なんだから」
バルトロスが、ずいっと体を前にせり出し、リリカと向きあう。
また、プチ舌戦がはじまる予感。
バルトロスが語気を強く「俺たちはすでに紋章師だ、生徒だからなんて言い訳にならない」と言い放つ。
しかし、リリカも負けじと「じゃあ、いわせてもらうけどね」と、応戦する。
頑固男と気の強い女の口喧嘩。火ぶたが切って落とされた。
この二人はどっちも折れないのだ。
どうしてこうも、自分を主張したがるのか。
シールズはからだを縮めて、俺に顔を寄せる。
「……永遠に繰り返されるこの光景。ヒトって学ばないよね……」
とつぶやく。俺はふたりを冷ややかに眺めながら、シールズの鈍感さに愕然とする。
「……あ、あのよ、シールズ。いまふたりが言い争っているのは、お前が原因なんだが……」
「え? ボクが? どうしてさ」
「はぁ……もういいよ」
俺はバルトロスとリリカを放っておいて、もう一度周囲を見渡した。
あちこちの座席に散らばっている生徒達をなんとなく眺めていると、ふと、気がついた。
俺は指をさして、ある生徒のかたまりを数えてみた。
「いち、に、さん、よん、ご……」
そして、少し離れた場所にいる、次の生徒たちのかたまりも。
「いち、に、さん、よん、ご……」
次も、その次の次も、生徒たちのかたまりはどこも5人組のようだ。
まさか。
俺は隣に目をやる。
黙ってぼんやりしているシールズ。
その向こうで、今にもつかみかからんばかりに言い合いをしているバルトロスとリリカ。
そして俺。
俺はゆびをさしてかずを数える。
「いち、に、さん、し、……よにん。これって……」
その時、講堂の中央から大きな声が響いた。
「待たせたね。お集りの生徒諸君!」
パッと目をやると、講堂中央の壇上に人のかげ。
いま声をあげたのは、おそらく養成院の教師だろう。
そして、その後ろに立つ人物に目をやる。
鮮やかに輝く真っ赤な制服に、たなびくマント。
その胸には大きな金獅子の刺繍がほどこされている。
あれは、宮廷魔術騎士団の制服。いつ見ても、あの制服はとびきり格好いい。
あの制服に手を通すことにあこがれて、宮廷魔術騎士団を目指す人もいるというぐらいなのだから。
集まっていた生徒たちは皆、一斉に立ち上がり、びしっと手を額に当てて敬礼をした。
俺たちも周囲に後れを取らぬよう、立ち上がり敬礼をする。
教師の後ろの人物は、一瞬、驚いたような表情を見せた。
そして、その彫刻のように整った顔をほころばせた。
その人物は、教師にかわり、ゆっくりと壇上に立つ。
改めて際立つのは、その特徴的な容姿。
スラリと伸びる手足。
肩越しの長い髪から見え隠れするのは、透けるような白いあごのライン。
ぴんと天にむかってとがる耳。この特徴は、エルフ族。
その人物は、口を開いた。
「みなのすばらしい出迎えに感謝する。ただ、あまり、緊張しないでくれたまえ、さ、腰をおろして」
その人物は、全員が座ったのを確かめて、自己紹介をした。
「はじめまして。わたしは宮廷魔術騎士団、養成部のハルエリーゼと申す。では、早速で申し訳ないが……」
ハルエリーゼは、本題に入った。
「今回の特別作戦の概要を説明させていただこう。まず、前提となる条件を二つ述べておく。ひとつめ、この作戦は志願者のみ参加してもらう。説明を聞いた後に参加するかどうかの最終判断をしてくれたまえ。不参加を選んだとしても何ら恥じることはない。そして、ふたつめ、この作戦はひとチーム5人編成での参加を条件とする」
やっぱり、ひとチーム5人編成だ。
俺の予感が的中した。
その時、となりで、ぶきょっ、みたいな、カエルがつぶれたような悲鳴が聞こえた。
俺は首をぐるりとまわし、その声の主を見た。
バルトロス。この作戦に参加しようと、このメンバーをかき集めたのは何を隠そう、こいつだ。
皆の視線をその顔にあびているバルトロスは、誰とも目を合わせずただ、前だけを見つめている。徐々にその顔は、青みを帯びてくる。
固まった俺達、最初に口を開いたのはリリカだった。
「……ねぇ、バルトロス、いま、ひとチーム5人が条件って聞こえた気がするんだけど、気のせいかしら」
「あ、まぁ、そうみたいだな」
「そうみたいだなって、あなた、みんなを強引にさそっておいて、肝心な参加条件を確認してないの?」
「いや、み、見たはずなんだけどな」
「しんっじらんない! 偉そうに、宮廷魔術騎士団がどうとか、チーム編成がどうとかいっといて、ばっかじゃないの」
「な、何も、そこまで言う必要ないだろ。もう一人誘えば済む話だ」
たじたじになるバルトロスに、理論武装少女のリリカは手をゆるめない。
「よく考えなさい、バルトロス。これは志願者に与えられる作戦なの」
「だ、だから?」
「いいこと? “いま、ここにいない時点でその人は不参加の意思表示をしている”ってことなのよ。誰を誘おうっていうのよ」
シールズが小声で俺に耳打ちする。
「……なんだか、このままじゃ参加できそうにないね……」
「せっかく来たんだ、とりあえず話だけでも聞こうぜ……」
俺たちの勘違いをよそに、ハルエリーゼは説明をはじめた。