転生の部屋ってまじなんか
さて、
ここで視点はアリシア・ハルンからはなれます。
主人公のウルの視点へともどります・・・・・・
ではでは・・・・・
昼食の時間、いつも通り養成院内の大食堂で飯を食う。
あまり食事がすすまない俺を気遣ってか、シールズが隣から俺の顔を覗き込んだ。
「ウル。食べないのならばボクが全部食べるけど?」
いまの言葉で、こいつは、俺の体の心配をしているのではなく、自分の腹の心配をしてるだけだと気づく。
俺はシールズのでかい目を睨み返す。
「……やるよ」
「ほんとに!? ありがとう、ウル、体調でも悪いの?」
シールズはおまけのような言葉で俺の体を気遣うと、俺の目の前にある肉の乗った小皿を素早く自分の手元に取り寄せる。そしてそのこんがり焼けた肉にフォークをブッ刺すと、勢いよく口にほうばる。
それを横目で眺めていると自然とため息がこぼれた。
こいつは、食欲の化身だ。
「はぁ……シールズ、お前、よくそんなに食えるな」
「これでも足りないぐらいだよ」
俺は椅子の背もたれに、ギシリと体を預けた。
どうも調子が悪い。最近、なんだかよく眠れない日が続いているせいもあるが。
もう一つ理由がある。それは、ある夢のせいだ。
なんだか、最近よく見る、あの奇妙な夢。
「なぁ……シールズ、お前ってさ、同じ夢を何回も繰り返して見たりすることある?」
「……ゆめ? ……そうだなぁ。ボクが何度もみる夢っていったら一つさ。大好きなアップルパイをお腹いっぱいに食べる夢。でもさ、最後の一つを手につかんだところで、いっつも目が覚めるから、悔しい思いをするんだよ」
「あぁ……そ、そうか……」
なんだろう、俺が話したいことと微妙にズレているような気もする。
シールズは肉をもごもごと噛みながら、話す。
「なんだい? 夢の話なんかして、ウルもお腹いっぱいになる夢でも見るのかい?」
「いや、食い物の夢じゃないんだけどさ……なんだか、すごい気持ち悪い夢を見るんだよ、最近続けて」
「どんな夢?」
「俺が、白い部屋にいるんだよ。ずっと先まで、何もない部屋。本当に、どこもかしこも真っ白な部屋」
「……へぇ、それで?」
「そこで、俺はすごく焦ってて、とにかくどこかに出口はないか走り回って、探すんだ。走っているうちに、次第にどっちを向いているのかわからなくなってきて、ついには上も下もわからなくなる……」
すると、少し先に黒いローブを羽織った人影がぼんやりと浮かぶ。
何もない白い空間に浮かぶ唯一の黒い目印。
それを目指して俺は駆けていく。
すると人影はどんどん大きくなる。どんどん、どんどんと大きく。
よく見ると、そいつは宙に浮いている。
「うん、それで?」
肉を食い終わったシールズは水のたっぷりと注がれたコップを片手にこちらを見ている。
澄んだ青い目をパチパチとさせながら。
「人影がどんどん近くなるんだけど、その人影がめちゃくちゃでかくなってくるんだよ。近寄ると、俺の背をはるかに超えて、この大食堂の天井に届きそうなくらいに」
そう言いながら俺は天井を見上げた。
つり下がったシャンデリアがこちらを見下ろしている。シールズも俺と同じように上を見ながらつぶやく。
「この大食堂の天井くらいの大きさって……巨人族よりも大きいよね」
「だな……で、そこで夢はおわるんだよなぁ……なんだかよくわからねぇんだけど、その夢から目覚めたら、全身にねばついた汗をかいてて、その日一日、なんだかしんどいんだよな」
「ふうん……真っ白い部屋か、それって転生の部屋じゃないの?」
「なんだよそれ、そういう部屋があるのか?」
「ボクが子供の頃に父さんから聞かされた昔話さ。巨碧人族の言い伝えにそういう話があるんだ。真っ白い部屋は転生の部屋で、神様とお話をする部屋なんだって」
神様とお話をする転生の部屋。
シールズは付け加えるように続ける。
「あと、こうも聞かされたな。転生の部屋には二種類あって、生まれる前に神様と話す部屋……それか、死ぬ前に死神様と話す部屋だってさ。今考えると、ちょっと怖い話だよね」
「生まれる前と、死ぬ前に訪れる転生の部屋……」
ならば、あの人影は神様、もしくは。
「死神様……か」
シールズの話をもとに考える。
とすると、あれは俺が死んだ時に訪れた、死神様がいる転生の部屋なのだろうか。
その時、死霊の紋章師であるトトに言われた言葉がよみがえる。
『あなたって死のニオイがする』
突然、背筋に虫が這い回るような寒気が走った。
まさか、俺の生命を狩り損ねた死神が、あきらめきれずに、夢の中で俺をつけまわしているとでもいうのか。
俺はブルリと全身を震わせ、その嫌な考えを振り払う。
シールズが不思議そうな声で話す。
「ウル。転生の部屋の話は、ボクが子供の頃に聞いた、ただの言い伝えだよ。そんなに真顔になられても困るよ」
「あ、あぁ……そ、そうだな」
「大丈夫かい? これから特別作戦で魔物の討伐に行くかもしれないっていうのに。ぼく達、同じチームになるんだから、しっかりしてよ」
「あぁ」
俺たちは食べ終えた空っぽの皿を重ねると、トレーに乗せて立ち上がった。