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呪いの魔術の授業⑧ もうすぐ魔力測定だぜぃ

四方を大きな石壁に囲まれた、魔術訓練場。

ここでの魔術訓練もそれなりに慣れてきた頃。


俺はポープ先生の教え通りに、傀儡人形(パペットドール)の作製と操作の練習を毎日毎日、気が遠くなるほど、繰り返していた。



今、目の前で繰り広げられる、俺の傀儡人形(パペットドール)とポープ先生の傀儡人形(パペットドール)との剣術試合。

互いの手に持つのは今や木刀ではなく本物の鉄の剣(アイアンソード)

白銀の剣が重なり合うたび、するどい音が鳴り響く。



俺とポープ先生はお互いの傀儡人形(パペットドール)がぶつかり合うその後ろで、静かに戦況を見守っている。心の中では、激しく命令を出しながら。

しかし次の瞬間。俺の口元から、思わず、声があふれ出た。



「……くっ、ハァ……げ……ん、かい、だぁあ!」




俺の気が散ったその刹那。

ぐっと足を踏み込んだポープ先生の傀儡人形(パペットドール)真一文字(まいちもんじ)に剣を振り上げた。




____ギィイイン




と鳴いた鉄の剣、大空高く舞い上がる。

俺の傀儡人形(パペットドール)が握りしめていた鉄の剣が地に着くとほぼ同時、俺の尻も地に着いた。



「ぷっはーッ! ハァ、ハァ、ハァ……これで……100戦、0勝、ハァ……」

「ほぉ、ほぉ、ほぉっ……いや、しかしウルや、よくやった。100連稽古をやり遂げたの」




ポープ先生の満足げな声が耳に届く。

俺が視線を前にとばすと、動きを止めた俺とポープ先生の傀儡人形(パペットドール)の合間を縫って、本物のポープ先生がこちらに向かって来る。

ポープ先生はその自慢のあごひげを撫でると、こういった。




「ウルや。お前も感じておろうの」

「はい。ポープ先生……俺の傀儡人形(パペットドール)ではいくら操作がうまくなったところで、先生の傀儡人形(パペットドール)に勝ち目はありません」

(いさぎよ)いの。その通り。どういった人物の傀儡人形(パペットドール)を使うのか。その重要性がわかったじゃろう」




そうなのだ。

傀儡人形(パペットドール)にはその元となる原物(オリジナル)の人物が必ず存在する。つまりはその原物(オリジナル)となる人物が弱ければ、いくら操作がうまくなったところで限界があるのだ。


ポープ先生は俺を見下ろす。

すっと右手を差し出した。俺は先生の手を握り、ぐっと体を持ち上げる。

なんとか立ち上がると先生を見た。



「ふぅ……ポープ先生。ハッキリ言って、俺の傀儡人形(パペットドール)と先生の傀儡人形(パペットドール)じゃ、原物(オリジナル)の能力差が大きすぎて、まるで勝負になりません」

「それが分かればよい。ではのう、次回の練習はこうしよう。ウル、今度はお前がワシの傀儡人形(パペットドール)をつくり操ってみるがいい。そしてワシがお前の傀儡人形(パペットドール)をつくり操ってみようぞ。それで勝負じゃ」

「え? そ、そんな事」

「ためらう事も無かろう。実戦になると、その場で傀儡人形(パペットドール)にする原物(オリジナル)の選定をせねばならぬようになるぞい」

「は、はい……でも、うまくいくか不安です……」




ポープ先生は不敵に笑った。




「何事も経験じゃぞ。ひとつ、助言しておこう。自分以外の傀儡人形(パペットドール)を操るとき、いったい何が問題になってくるのか、そこをよくよく考えておくのじゃぞ……では、少し休憩とするかのう」




俺とポープ先生は傀儡術を解くと、日陰になっている壁際に歩み寄り、どかっと座り込んだ。

しばらくぼんやりしていると、俺の頭に、最近知り合ったトトの顔がふと浮かんだ。

トトが最近調べているという高位複合魔術こういふくごうまじゅつ

二つの違う魔術が混ざり合い、さらなる効果を発揮するという魔術だ。

俺はポープ先生にたずねてみた。




「ポープ先生。先生は二つの紋章持ち(ダブルクレスター)だと聞いています。呪いの魔術と、時の魔術、二種類の魔術を扱えるんですよね?」

「いかにも」

「だとすると、一人で高位複合魔術を作り出すことができるっていう事なんですか?」

「そうじゃが……」



凄いな。だとすると単純に考えても、一人で二人分の戦力になるってことか。

いや、でも魔術の効果が何倍にも膨れ上がるという事だからそれ以上。下手をすると一分隊(8~12人)くらいの戦力にはなるのかもしれない。

ポープ先生が俺の顔を覗き込む。




「ウルや、高位複合魔術は、お前にはまだ早いぞい」

「あ、いえ……実は、俺の友達が、それについて色々と調べているみたいで……」

「……なるほどのう。しかし、新入生はまだ基礎魔術の訓練中じゃて。基礎から固めねば、そのうちガタがきて崩れてしまう。なにしろ、高位複合魔術は相性のいい魔術同士を掛け合わせると、その威力は何十倍にも膨れ上がる」

「な、何十倍!? ……そ、そんなに」

「そうじゃ、だからのう……扱いを間違えれば……自分の身を亡ぼす諸刃の剣にもなりかねん」

「確かに……」



威力が何十倍にもなるだなんて。そこまでとは想像していなかった。


だとすると、俺の父であるアルグレイ・べリントンは一体どれほどの強さになるのか。

俺の父は四つの紋章持ち(クアドクレスター)なのだ。

二種類の魔術をかけ合わせただけで威力が何十倍となると、四種類の魔術ともなると、何百倍にもなりうるってことなんだろうか。

そう考えると、俺の父はたった一人で騎士団中隊(~250人ほど)いや、騎士団大隊(~1000人)ほどの戦力に匹敵するのかもしれない。




「……一騎当千(いっきとうせん)ってこのことか」




これは勇者を現す表現の一つだけれど、俺の父は、リアルにそれにあたるのかもしれない。

考え込んでいる俺にポープ先生が思い出したように告げた。




「お、そうじゃ、ウル。もうすぐ魔力測定の時期じゃぞ」

「え? 魔力測定? そんな授業ありましたっけ?」

「なんじゃ、お前しらんのか。不真面目な奴め。魔力測定は、基礎魔術の授業の終わりごろに生徒全員がうける測定じゃぞい」



「あ、そんなのがあるんですね」

「まぁ、ひとつの目安としては参考になるという程度のものじゃがの。特に我々のようなヒト族に関しては、測定器の数値がブレるからの」




ぶれるだなんて。数値がぶれてしまうのならば意味がない気もするんだが。

でもなんだか、少し意味深な言い方が気になる。

俺はポープ先生に聞いた。




「測定器の数値がぶれる、特に俺達ヒト族に関しては……ってどういう意味ですか?」

「獣人族や妖精族は基本的に魔力が高いのは知っておろう、我々ヒト族よりも。じゃがの、ヒト族の魔力というものは、その時々の感情により大幅に増減する。魔力のふり幅がほか種族より大きいのじゃよ。誤差の範囲ではおさまらんほどにな」

「ヒト族が一番感情の度合いが高いと?」

「そうじゃ、良くも悪くもな。ウル、お前にも過去があるじゃろう。お前自身にも気がつかないほどの深い深い感情が、記憶の奥底に眠っているかもしれぬ。その感情の深さこそが、お前の魔力の底力となるやもしれぬぞい……感情の開放は、魔力の開放とにておるからのう、ほぉ、ほぉ、ほぉっ。期待しておるぞ、ウルや」




俺自身の感情の深さが、俺の魔力の、底力。




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