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わたしが知りたいことはね 



死霊の紋章師トト。

彼女と魔術図書館で顔を合わせるうちに、彼女はぽつりぽつりと語りだした。

彼女が今、何について調べているのかを。

俺は聞き返す。




「こ、高位複合魔術こういふくごうまじゅつ?」




トトは小さくうなずく。




「そっ、わたしが今一番知りたいのは高位複合魔術について。ウルも、聞いたことぐらいあるでしょ」

「高位複合魔術っていやぁ……あれだろ、火の魔術と風の魔術をくみあわせて火炎の竜巻を巻き起すってやつだろ」



「そうよ。火の紋章師と風の紋章師がそろって、はじめて使える魔術。それと同じように、死霊の紋章師と他の紋章がそろってはじめて使える魔術というものもあるはずなの」




俺たちは魔術図書館の自習室で隣同士、肩を並べて座っていた。

目の前の机に積みあがるいくつもの分厚い本。

トトは、それを次から次へと手に取って、目次に目を通している。

トトは真剣なまなざしで目次の列を眺めながら、話を続ける。




「強力な魔術を学びたいならば、すべからく高位複合魔術を学ぶべきなのよ。でも、高位複合魔術はいろいろな意味で危険だからか、この養成院じゃその使用を推奨されてないみたいなのよね。ダメ、この本にも載っていないね」




そういうと、トトは手に持っていた本をわきに置いて、次の本に手をのばす。




高位複合魔術か。複数の紋章師があつまって実行する難易度の高い魔術。

いってみれば、足し算、いや、掛け算といえるか。

いくつかの性質の魔術がまじりあう事で、その威力や効果は爆発的に跳ね上がるらしい。



そういえば。

俺にかけられた“黄泉(よみ)がえりの呪法”もたしか、高位複合魔術だったはず。

黄泉がえりの呪法は、死んだものをよみがえらせるために、その血縁者の魂を生贄に捧げるという忌まわしき魔術だ。

俺は兄の為にこの命をささげ、死んだはずだった。

だが、なぜか、今もこうして生きている。




俺は自分の手をふと見つめる。奇妙なほどに青白い俺の手。

指を開いて閉じて。この体は問題なく動く。

しかし、よみがえってからというもの、俺の体にはいくつかの変化が起きはじめている。


黒々としていた髪の毛は、よみがえった時から銀灰色(シルバーグレイ)になっちまった。

なんだか妙に体が冷たいし、鼓動の数も少なくなっている。

もともとなかった体力は、さらに落ち、最近は食欲も落ちはじめているのだ。


そして、この前、剣術の稽古の時にハッキリと自覚したことがある。

それは、痛みや出血にかなり鈍感になってきているという事だ。

剣術稽古の相手だったシールズに指摘されるまで、俺は木刀を握る自分の手から、かなりの量の血がしたたり落ちていることに全く気がつかなかったのだ。


もう少し正確に言うと、気がつけなかった。


痛みもなければ、違和感もなかったからだ。自分が怪我をしている事に気がつけない。これはつまり自分の体が発する危険信号が読み取れないという事だ。


それ以降、俺はケガや出血かないか、常に気を配っている。


あとは、最近、夜中に突然目が覚めることが増えた。

そんな時、部屋の天井をぼんやりと眺めながら、毛布を鼻まであげる。

でも、なかなか眠れない。このまま、目を閉じて眠ってしまうと、もう二度と目覚めないのではないかとおもってしまう。

暗闇の中、そんなおそろしい不安に押しつぶされそうになるのだ。

そのせいなのか、最近は眠る時間すら減ってきている始末だ。




「はぁ……」




ため息をついた俺の横顔にトトが鼻先を近づけ、すうっと息を吸い込んだ。




「幸せが逃げるわよ」

「おわっ! なんだよおめぇは! 人のニオイばっかりかぎやがって。前世は犬か何かか?」

「……いいじゃない。減るもんでもないし……でもさ、な~んかニオうのよね」

「な、なにがだよ。ま、まさか、おれってそんなにくさいのか」




俺はトトから身を離し、自分の腕に鼻を当てクンクンと嗅いでみる。

が自分ではわからない。それを見てトトが笑う。




「そういう意味じゃな~いの……ウル、あなたってね、死のにおいがするのよ」

「え……?」



死のニオイ。どんな匂いなのか俺には見当もつかない。

が、トトのいう事は、全く見当ハズレともいえない。

というか少し当たっている。

なにせ、俺は一回死んでいるのだから。トトにはそれがわかるってのか。

俺は、トトの言葉にうなずきそうになるが、慌てて首をぶんぶんと横に振る。




「な、何をいったい。俺はこうして生きている」

「不思議よね。死者のにおいがする生者なんて初めて会ったわ」

「お前の鼻がおかしいんじゃねぇのかよ……?」

「あら、しつれいな」



トトは俺から顔を離し、再び手元の本に視線を戻した。


死のニオイ、だなんておっかないことをいう奴だ。こいつは本気で言っているのか、それともただの冗談で言っているのかよくわからない時がある。


でも、よくよく考えると、確かにトトの言う通りなのかもしれない。

俺は半分死んでいるのかもしれない。

俺の体に現れ始めた、さまざまな症状がそれを物語っている。

生者として半分、死人として半分。

半死人。


半死人の俺の体。最近出現し始めたいろいろな症状。

この先も、まだ何か起こるというのだろうか。なんだかな、いやになっちまう。




その時。トトが小さく叫んだ。




「あ、あった。高位複合魔術の項目が」

「お、どこだよ」

「あぁ……でも、この本は、戦術書だわ……期待うす」




俺はトトが開いたページを一緒に覗き込んだ。

そこには冒頭に、こう書かれている。



“高位複合魔術 各紋章師の戦術的陣形配置”




ようするに、戦闘時の紋章師の配置場所についてだ。

俺たちにはあまり関係がなさそうだ。トトもそう感じたようで、こちらをちらと眺めてため息をついた。



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