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呪いの魔術の授業④ 呪いの紋章師 セフィロート・べリントン ★



ポープ先生は俺の背後からすっと離れ、机をはさんだ真正面の席にまわりこむ。

そして、ゆっくりと腰かけた。

ポープ先生は背筋を伸ばし、長い白眉の下からのぞく目でじっと俺を見つめる。




「ウル……なんだか顔色が優れぬように見えるが、大丈夫かのう……?」

「は、はい。なんだか想像以上のお話だったので、おどろいちゃって……あの、ポープ先生、ひとつ教えてもらいたいことが」

「いいとも。なにかな?」

「その……呪いの紋章師の男の……名をきいても?」

「……セフィロート・べリントン」





セフィロート・べリントン。俺の先祖、何代も前の。

彼は、一体どんな男だったのだろう。俺は、無性にその男の事が知りたくなった。




そいえば、子供の頃、兄と一緒に家系図を見た記憶が残っている。

だだっ広いお城の、書庫の中で遊んでいた時に見つけた長い絵巻物。

それを床に転がして、ひろげて眺めた。

今となってはおぼろげにしか覚えてないけれど。

思い返す限り、セフィロートなんていう名前は、載っていなかったような気がする。

もしかすると、セフィロートは、家系図からも消し去られたのか。


いや、まてよ。こうは考えられないだろうか。

セフィロートは、家系図から消し去さられたのではなく、あえて家系図から飛び出したのかもしれない。

彼は、べリントン家という呪縛から抜け出し、自由の旅にでたのかもしれない。

孤独という小さな馬に乗り、べリントン家に背を向けて。



挿絵(By みてみん)



そうだ、まるで、今の俺のように。



俺の中で、セフィロートという男の存在がむくむくとおおきく頭をもたげてくる。

彼の事を知りたい。

死体を使い傀儡人形(パペットドール)の宮廷魔術騎士団を作った男。

そして、その存在を闇に葬られた男。


俺はその男の名をつぶやいた。




「セフィロート・べリントン……彼は一体、どんな男だったんでしょうか……」





俺の小さなつぶやきにポープ先生が応じる。




「さぁのう……今となっては知る由もない。しかし、呪いの魔術を、深く深く学んでいけば、どこかで必ず出くわす名じゃ」

「ポープ先生。セフィロートは、なぜ歴史からその名を消されたのでしょうか」

「真相はわからぬ……セフィロートはその優れた魔術の才能で、傀儡人形(パペットドール)で組織した宮廷魔術騎士団を実際につくり上げた。しかし、それをよく思わない連中もいたのじゃろう。最後は、すべてをその身に背負い、非業の死を遂げたといわれている」

「処刑……されたのでしょうか……」

「さあのう……さて、ウルや。今日のところは、ここまでにしよう」




ポープ先生は突然、話を切り上げた。

戸惑う俺にこう告げる。



「ウル……もしも、セフィロート・べリントンの事をもっと知りたいのならば、自分自身でも色々と調べてみるがよい。言い伝えとは違う真実がかくされているかもしれぬぞい」



今までとはうってかわって明るい声でポープ先生は話す。

俺は、がらりと変わった雰囲気についていけず、なんだか置いてけぼりを食らった気分になった。ポープ先生はいつものニコニコ顔だ。




「で、でもポープ先生。セフィロートの事を調べるといっても彼はどの歴史書にもどの魔術書にも載っていないんですよね?」

「そうじゃよ。だからのう、ウル。調べる方法を自分で考えるのじゃ。それが学ぶという事じゃよ。学びというのはの、物事を丸暗記する事ではない。どうすれば答えを導き出せるのか、どの方法を使うのか、それを考えることが学びなのじゃ。その為に様々な知識を覚えるのじゃぞ。勘違いしてはいけんぞい。ほぉ、ほぉ、ほぉっ」

「は、はぁ……」




なんだか、妙にごまかされたような。

どうやら、セフィロートの話はここで終わりのようだ。

俺は気を取り直して、セフィロートの話は、一旦わきに置いておくことにした。

ポープ先生は次の話に移った。





「さて、依り代の話の次は、依り代をつかって作る“ヒトガタ”についてじゃ」

「ヒトガタ……ですか」

「そうじゃ、ヒトガタというのはのう……」




そこから、ポープ先生の、長い長い講義が始まった。

講義が終わる頃には、すでに小窓の外の日は暮れかけていた。


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