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呪いの魔術の授業② 依り代 


傀儡人形(パペットドール)によって構成された宮廷魔術騎士団。

彼らは、疲れない、眠らない、食事もとらない、そして迷わない。

躊躇なく命令のみを実行する。


そんな騎士団が本当に存在するのならば、それは、とてつもない脅威になるだろう。

そんなものを作ろうとした呪いの紋章師が本当にいるのだろうか。

しかも、このエインズ王国に。



ポープ先生は遠い記憶をさかのぼるように、視線を虚空に向け話しはじめた。



「これは呪いの紋章師たちによる言い伝えだ。はるか昔の話じゃから、すべてが事実とは限らん。それに、語り継がれていくうちに、話に尾ひれがついているかもしれぬ」

「……はい」

「ウル、今から話す内容は、(いまし)めとしてきいておいておくれ。何事も行き過ぎはよくないという戒めじゃて」

「わかりました。しかし、その男……その呪いの紋章師はいったい何をしたのですか?」

「その男はただ、呪いの魔術の研究にのめり込み過ぎたのじゃ。深淵に立ち、その底を覗き込んでしまったのじゃろう……」




深淵を覗き込んだ男。俺の背筋にひんやりと冷たいものがながれた。

光を飲み込んでしまうほどの闇の大穴。そこを覗き込んでしまった呪いの紋章師。

ゴクリとつばを飲みこむ。




ポープ先生は続ける。



「ウルや。傀儡人形(パペットドール)の精度を上げるために必要なのは、何かな」

「はい、まず、一番初めに重要になるのはヒトガタを作るために準備する()(しろ)(※神霊を呼び込む物質)の選び方です」

「そうじゃ。その()(しろ)にも色々と序列(ランク)があるのは知っているのう?」

「はい、先ずは簡単なものから言うと羊皮紙や御幣(ごへい)(祈りに使う祈禱用の祭具)、護符。次に木片、さらには石や宝石。一番強力なのは魔鉱石。魔力のこもったものほどその効果が大きいはずです」




俺は机の上に無造作に転がっていた羽ペンを手に取る。そして手元の羊皮紙に書き記していく。









~~~~~~~~~~~~~~~~~~



傀儡人形(パペットドール)の依り代となるもの



羊皮紙、御幣(ごへい)護符(ごふ)

木片

宝石

魔鉱石



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








今まで学んだ事をひと通り書いた後、俺は顔を上げた。

すると、ポープ先生は立ち上がり、机をなぞりながら歩きはじめた。

ゆっくりと俺の背後に回る。

そして、俺のいましがた書いたものを眺める。少しの沈黙。

それを見下ろしながら、ポープ先生は口を開く。




「魔術書どおりならば、それらが、おもな依り代となろう」

「え? ほかにも依り代にできる物があるのですか?」

「そうじゃ、まだまだいろいろなものがあるんじゃよ。どれどれ、ペンを貸してみなさい」




ポープ先生はそう言うと、俺の手からすっとペンを引き抜いて、羊皮紙に手を伸ばした。

大きな指先を揺らしながら、ゆっくりと文字を書き始めるポープ先生。

ポープ先生の文字は大きく、そしてとても滑らかだった。

真っ黒いインクでサラサラと文字がならぶ。

どんどん、傀儡人形(パペットドール)の依り代につかえる物が増えていく。しかし、その中には、大きな声では言えないようなものまでが含まれていた。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



傀儡人形(パペットドール)の依り代となるもの



羊皮紙、御幣、護符

木片

宝石

魔鉱石


貨幣など、銅貨、銀貨、金貨

獣、魔獣の角、歯、骨、爪

獣、魔獣の死骸

四肢のある生き物の死体


~~~~~~~~~~~~~~~~






ポープ先生は書き終えると、ペンをそっと俺の手に握らせた。

そしてささやくように続ける。




「これはまだほんの一部じゃが。他にも傀儡人形(パペットドール)の精度を上げるための依り代はいくらでもある」

「……でも……四肢のある生き物の死体ってことは、つまり……」

「そう。わしら(・・・)の死体、じゃよ」

「ヒトの死体……そんな……そんな物を……いったい何のために?」

「ウル、さっき言ったじゃろうに。これらの依り代は傀儡人形(パぺットドール)の精度を上げる為のものじゃとな」

「でも……」




ポープ先生は、ここに書かれた物以外にもまだ依り代にできるものはあると言った。



俺は、その言葉の真意を瞬間で把握してしまった。

それは、俺たち以外、つまりは、獣人族やそのほかの種族の死体も使えるってことなのだろう。ポープ先生は、きっと、あえて中途半端な書き方したのだ。

だって、あまりにも、危険な領域だから。

これが、呪いの紋章師の授業、というやつなのか。



その時、俺の中に芽生える疑問。

ポープ先生が言った、ある男。

ある呪いの紋章師の話がここで持ち上がる。

聞きたくないけど、聞かなくてはならない。俺は目の前の文字を眺めながら、後ろにいるポープ先生に質問した。




「ポープ先生。さっき言っていた男の話。傀儡人形(パペットドール)たちを使い宮廷魔術騎士団を作ろうとした呪いの紋章師は……ここにある依り代を使ったのですか?」



ポープ先生の返事はわかりきっている。でも俺は聞いた。勇気を振り絞って。

その呪いの紋章師はきっと、一番下の依り代をつかったのだろう。

ヒトの死体をつかい傀儡人形(パペットドール)をつくったのだ。

精巧で精密な傀儡人形(パペットドール)を。死体で出来た人形を。



時が止まったような沈黙の後。ポープ先生が答えた。「そうだ」と。

そしてこう付け加えた。




「その男が使ったのは……エルフ族やオーク族、獣人族たちの死体をつかったのだそうだ。何百体も、研究と称してね……」



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