表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
295/430

緊縛術、呪いの鎖 ★



俺たちは音を立てないよう腰を落として這うように進む。


ゆっくりと、気づかれないようにドラクルの群れに近寄る。岩や草むらを渡りながら。

進むにつれてドラクル達の姿は次第に大きくなってくる。少し大きめの草むらの影までたどり着くと、テマラが動きをとめて、ささやいた。




「……このあたりが、限度だ。レギーお前さんの“鑑定術”はここからでも使えるのか?」

「……きっと、この距離ならば大丈夫だと思います……やってみます」




そういうとレギーは目を閉じて胸元に手を当てる。

そして、奇妙な響きの難解な古代語を語りだす。これが獣の紋章師の魔術。レギーは古代語によって構成された獣詞(ノリト)(※呪文の意)を小さな声で唱え始めた。

俺とテマラは、じっとドラクル達に視線を固定する。

さいわいな事に、ドラクル達は水を飲むことに夢中でこちらには気づきそうにない。


レギーは獣詞(ノリト)を唱え終わったかと思うと、両の手をふっと前にかざした。そして目を細めてドラクル達の群れに視線を飛ばす。最後に、小さくつぶやいた。





「鑑定術:布刀玉命の眼(フトダマのまなこ)




レギーの目から発せられるのは、まるで炎のような赤いゆらめき。

レギーはその真っ赤な目でしばらくドラクル達を眺めていた。そして、しばらくするとかざしていた手をふいにおろす。目の赤い光がすっと消えた。

テマラがどこか不安げな声で、小さくたずねた。





「レギー、どいつを狙えばいい?」

「操りやすそうなのは……一番左にいる2匹です。少し群れから離れているあの2匹」

「あの2匹だな?」





テマラが念を押すように、左端のドラクルたちに指をさしてレギーに目くばせした。その言葉にレギーがうなずく。次にテマラは俺に顔を向ける。




「ウル。今度はお前の番だ。いいか。お前は一番はしっこのドラクルに“緊縛術”をかけるんだ。俺はその隣の大きい方を狙う。お前、呪詞(ノリト)はしっかりと頭に入っているんだろうな……絶対にへまするんじゃねぇぞ?」

「あぁ……絶対、大丈夫……だと……思う」

「なめてんのか、おめぇは。思う、じゃあねぇんだよ。このクソヤロウが」

「うるせーな。世の中に絶対はないんだよ」

「ないからこそ、それを目指すんだろうが。ちっ、お前なんかより、レギーの方がよっぽど肝が据わってるぜ。いいか、俺とお前の“緊縛術”をほぼ同じタイミングでやらねぇと、やつらを逃がしちまうぞ」




テマラはそう吐き捨てると、さっそく呪詞(ノリト)を唱え始めた。俺もあわてて唱える。

口元にそっと手を当て古代語をつぶやく。何度も何度も復唱したんだ、しっかりと頭に入っている。忘れるはずがない。俺は目を閉じて、精神を集中させる。腹の底に力を込めて、古代語を重くつぶやいた。

一つでも言葉や発音を間違えると、魔術は発動しない、もう一度、最初から唱えなおす必要があるのだ。俺は一句一句、確かめて言葉を選び取る。そして唱え終わる。




「緊縛術:呪いの鎖」




その時、突然、俺の両の手がぐっと重くなり下に引っ張られる感覚。それと同時に周囲から聞こえてくるのは、ジャラジャラと何か固いものが連鎖でぶつかる不快な響き。成功だ。

俺は薄く目を開いた。




挿絵(By みてみん)





俺の手に巻き付いているのは漆黒の鎖。

俺はその闇から生まれた鎖をぐっと握りしめた。

ふと、耳元でテマラの声が聞こえた。




「ウル、いまだ」




その声を合図に、俺とテマラはほぼ同時に立ち上がり、草むらから上半身をあらわに伸ばす。そして、それぞれのターゲットめがけて手に持つ呪いの鎖をしならせた。



その瞬間。一斉に水辺のドラクル達がこちらに顔を向けたのが分かった。と同時にドラクル達は大きく飛び跳ね方々に散った。

俺のターゲットは1頭。それ以外はどうでもいい。

俺の手から伸びる真っ黒の鎖の先端は、放たれた矢のような軌道でドラクルの足を一直線に捕らえた。鎖はぐるりとドラクルの後ろ脚を巻き上げる。ドラクルは体勢を崩してその場にへたり込んだ。

しかし、ドラクルもじっとはしていない。鎖から足を抜きだそうと強くもがく。俺は離すまいと手にもつ鎖をしっかりと握りしめた。ここまでくれば大丈夫。俺は思わず大きく叫んだ。





「やった! つかまえた!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ