クレタのこころ ③(短め)
老婆から貰った地図を頼りにわたしは進む。
そして、見つけた。
少し先に、谷底の沼地に揺れる大きな影。それは見事にたたずむワイバーンだった。わたしは魔獣避けの結界宝玉を取り出して、触れる。宝玉の内部から漏れていた翡翠色の輝きはなりを潜めた。
わたしはゆっくりと近寄ってその大きな体の飛竜を確かめる。
「あなたね、わたしの探しものは」
火のような紅色の鱗。そのワイバーンは私にチラリと視線を向けて小さく鼻をならした。そして首をもたげる。その首元にはアスドラ帝国の国章が刻まれたマントがかけられていた。
「軍用飛竜ね、よく……訓練されているみたい」
わたしはミュウを抱え直すと、ワイバーンの背中に据え付けられた鞍に飛び乗り次の目的地を地図で確認する。
「お次は、隣国、砂の国ダールムール……それにしても、ワイバーンを乗りこなす事なんて、わたしにできるのかしら」
わたしは恐る恐る、手元にかかった黒い手綱を握る。そして確信する。わたしはワイバーンに乗ったことがあるのだろう、と。
わたしは勢いよく手綱を引き絞った。途端に、ふわりと周囲の景色が下に見えはじめ、ついに空へと飛び込んだ。
残念ながら、優雅な空の旅は長くは続かなかった。地上での移動とは比較にならないほど、空の移動は格段に便利だ。
けれど、わたしたちに追手というものがついているのならば、空での移動というものは地上での移動に比べて圧倒的に見つかりやすくなる。
「……やっかいね」
わたしは肩を斜めに後ろに目をやる。
真っ青な空の中。泳ぐように蠢く飛竜の影。遠目でよくみえないけれど、明らかに野生ではない気がした。あの飛竜はこちらを認識している。直感がそうささやいた。
その瞬間、何かがキラリと瞬いたかと思うと視界がブレるほどの衝撃が襲う。
わたしは手綱を片手にミュウをぎゅっとだきしめた。
ワイバーンから発せられた千切れるような黄色い悲鳴に耳が痛くなる。
「ま、まさか攻撃!? 空中なんかで! なりふり構わず!」
わたしは慌てて手綱を手前に、大きく旋回した。
わたしはお腹にしがみつくミュウにつぶやく。
「ミュウ、しばらく、穏やかじゃなくなるわよ」