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結界宝玉(けっかいほうぎょく)

久しぶりの投稿ですがよろしくおねがいします。

 おさないワイバーンを細い両腕に抱えた少女は薄いピンクのくちびるで“クレタ”と名乗った。呆気にとられて固まっていた俺たち。その耳に届いたのは背中からの金属音。




 カツン、カツン、



 靴音を響かせて誰かが梯子をのぼってくるようだ。

 俺とバルトロスは咄嗟に互いの顔を見合わせた。瞬間、バルトロスが俺と同じことを考えている事がその目でわかった。

 バルトロスが妙に冷静な声で梯子のほうをにらんでつぶやく。




「だれか来る……ウル、おまえのそのクソ長いマントの出番だ」

「マント? 俺のマントがどうしたって……」




 俺が言い終わらないうちにバルトロスは強引に俺の胸元の留め具を外して俺からマントを奪い取ると、クレタに走り寄って頭から覆い隠す。そして小声でつぶやいた。



「……クレタ、いいか、くるまっていろ、絶対にしゃべるなよ」

「うん……わかった……」



 マント越しにクレタのこもった声が俺の耳にも届いた。バルトロスはクレタを屋上の隅っこに連れていきしゃがませると、俺の横に舞い戻る。その動きは無駄がなく素早かった。


 そして緊張した顔つきで小さく耳打ちをする。



「ウル、宮廷魔術騎士団の皆は酔っている。多分酔い覚ましに来ただけだ、何とかしのごう」

「しのぐったって、どうするんだよ」

「あのマントに気が向かないようにするんだ。陽動作戦だ。殴り合うぞ」

「は?」

「鈍いな。喧嘩のふりだよ、殴り合いでもしてりゃ、奴らもあわてて止めに来るだろ」

「ぐへぇ……そんなんで、いけるのかよ……」

「陽動は、兵法の基本のキだ。お前だって習っただろ」

「はぁ、わかったよ。俺さ、痛いの嫌いなんだよな……」

「ばかやろう、俺だって嫌いに決まっている」



 俺たちは向かい合って、お互いの胸ぐらをつかんだ。心臓がドクドクと早鐘を打つ。誰かを騙すことに対する罪悪感か、それとも陽動作戦がうまくいくかどうかの高鳴りか。なんだかよくわからない感情が渦巻いて、俺の全身をびりりとこわばらせた。


 見るとバルトロスの目にも迷いが見えた。俺たちはお互いを勇気づけるように、どちらからともなく、小さくうなずいた。




 その時、梯子から顔を出したのは、宮廷魔術騎士団員、ではなく青白いシールズだった。シールズは俺たちの緊張など知ったことではないといった軽い声で、話しかけてきた。




「なにやってるんだよ、むかいあっちゃって、きもちわるいなぁ」




 胸を圧するプレッシャーが一気に散らばり夜風に消えた。俺とバルトロスはどっと膝から崩れ落ちた。ひょこひょこと歩み寄って来たシールズは不思議そうな目でつぶやいた。



「何をそんなに驚いているんだよ、そんなに僕がこわかった?」




「んなわけあるか!」



 おれの断末魔は夜空にむなしくこだました。 


 




 その後、俺たちはひとまずシールズに手短に事情をはなした。

シールズは目を丸くする。



「事情は分かったけど、その子をかくまうのはどうしてさ。宮廷魔術騎士団の人たちに報告しないと」



 バルトロスが強く首を振る。



「俺は反対だ。彼らはあの子の身柄を確保して上層部に報告したりなんかしない」

「どうしてさ。彼らは国境警備隊なんだ。それにさ、バルトロス、そもそも僕たちはまだ養成院の生徒であって、彼女の身柄をどうこうする立場じゃないよ」

「そんなことはわかっている。しかし、彼らにあの子を引き渡したら、絶対にあの子は助からない」



 シールズが怪訝につぶやく。



「助からないって……どういう事? 不法入国者は牢屋いきなのは当たり前だろ?」

「シールズお前、今日の彼らの対応を見ただろ。彼らは彼女をこの森の奥に放り出して、魔獣どもの餌にするに決まっている。そして何事もなかったかのように終わらせる」

「そんな事……」



 シールズは言葉に詰まる。その苦い表情からよみとるに、シールズも彼ら宮廷魔術騎士団員たちの行動には少なからず不信感を持ちはじめているように見えた。俺は2人を見比べながら言葉をつなぐ。



「ただ、彼女をかくまうとして……どこに彼女の隠れる場所があるんだ? 俺たちの寝泊まりする場所は狭苦しい馬小屋だし、あっという間にバレるぞ」



 その時、俺たちの少し後ろで肩からマントにくるまっていたクレタが口を開いた。




「あの……わたし、森の中でも平気なの……これがあるから……」




 クレタはそういうとマントの下からするりと手を刺し伸ばした。内側から光を放つような真っ白い手のひらの上には小さな宝石のようなものがついたペンダントが乗っていた。


 俺はたずねる。



「そのペンダントがあれば、森でも平気なのかい?」

「ええ……これは魔物よけの効果がある魔道具なの」

「なるほど、だから無傷で夜まですごせたのか。でも、魔物よけの魔道具……? なんだか授業で聞いた事があるような……」




 その時シールズが上ずった声で小さくわめく。




「へぇえ!? 魔物よけの魔道具!? それって結界術の施された結界宝玉(けっかいほうぎょく)ってこと」




 クレタは小さくうなずいた。



「ええ……なんでも高度な結界術が施されているって」

「高度も高度、超々高度な古代魔術の一種がかけられた宝石だよ! それこそ城が一つまるごと買えるってくらいの高価なものだよ! どしてそんなものを君が!?」


 

 俺とバルトロスは、はっと顔を見合わせる。


 アスドラ帝国の国章をつけた立派なワイバーンに乗り、獣人族の従者引き連れ、城がかえるほどの高価な宝石をもつ少女。


 想像以上に高貴な身分の人物なのかもしれない。


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