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地下組織 ウロボロス


 いじめ。


 って、いったいなんなのだろう。

 リリカに向けられている“敵意のようなもの”の正体は分からない。

 だからこそ、俺の目にはリリカの状況がとても不気味に映りこむ。


(まぁ、俺もべリントン家からのいじめを受けて追い出されたも同然だからな)



 ぼんやりと、寄宿舎の寝台にねそべって天井を見上げていると、部屋の扉をノックする乾いた音が響いた。



「……こんな夜更けに、誰だよ、ったく……」



 俺の小さな独り言が聞こえたのか、扉の向こうから名乗りを上げる声。



「……ウル、僕だよ、シールズだ」

「シールズ? なんだよ。鍵は開いてるぞ」

「…え、なんだ、不用心だなぁ」


 シールズは大きな体を折り曲げていそいそと部屋に入り込んでくると、寝台前にある机の椅子を引き、ドスンと腰を下ろした。

 すでに寝間着姿のシールズ。

 肩からかけた羽織りをきゅっと首元に寄せてつぶやく。



「ウル、告白した」

「え? だ、だれに?」

「僕たちと同じクラスのスンリだ。知っているだろ」 

「ええっ!? シ、シールズ、お前、スンリの事が好きだったんだ。い、意外だな」



 意外と直球勝負する男だったのか。俺はシールズを見直しかけた、その時。



「あのさぁ、ウルって鈍いなぁ。これは、リリカの机に教科書を忍ばせた犯人の話だよ」

「さっきから、何を言ってんだよ……え、そんなわけ」



 俺はそう言いかけながらも、どこか嫌な予感が当たってしまったような気になった。

 むくりと体を起こして胡坐をかく。

 そして、シールズに向き合った。

 その目をじっと覗き込むが、シールズの瞳は微動だにしない。

 こうやって目を据える時、大抵、冗談ではない時。


 シールズはまばたきもせずに、丸い瞳をこちらに向けてコクリとうなずいた。

 俺が口を開く前にシールズが続ける。



「なんだかさ、リリカに泣いて謝ってきたんだってさ。でも、ずっこいよね。罪の意識に悩まされたかなんだか知らないけどさ。急に謝ってくるなんて。リリカは懲罰委員会にかけられて試験の点数をゼロにされたってのにさ」

「でもさ、だったら、リリカの疑いは晴れたじゃねぇか?」

「それがさ、リリカのやつ。ウルと僕以外には誰にも言わないってさ。先生にも言わないでってさ。これでこの話を終わらせる気なんだ」

「……何か理由がありそうだな」



 シールズが声を潜めて話したことは、にわかには信じがたい内容だった。



 紋章師養成院。ここは、魔術の才能が開花した少年少女たちの学び舎だ。身分や種族の差異にかかわらず、平等に学ぶ機会を与えるという理想が掲げられている。

 が、どうやらそれはあくまでも理想であって現実はそうではないらしい。

 

 つまりは生徒達の世界。水面下では貴族組の生徒達が幅を利かせ、平民組を排除しようとする動きがあるという。

 そこで、今回その貴族組のターゲットになったのが、成績優秀な平民出身のリリカだというのだ。

 リリカを陥れるために、平民のスンリを脅し、リリカに冤罪をかぶせた、それがリリカなりの推測だ。だからスンリは悪くない、と。


 苦い表情をしながらシールズは話す。



「それでさぁ、リリカが言うには貴族組の生徒達が作っている裏組織みたいなものがあるんだってさ。なんていうの、ああいうの、ほら……隠れているやつ」

「……地下組織?」

「そうそう、そういうやつ」

「マジかよ……そんな陰謀論めいた話をするなんて、リリカの奴……大丈夫なのか?」

「でも、あながち嘘でもなさそうなんだよね。実は僕もちらっと聞いた事あるんだよ。僕と同じ村に、過去に紋章を授かった人がいたの。その人も昔、この養成院に入ったらしいんだけど、途中でやめちゃってさ。なんかそういう地下組織かなんかわからなけど、いろいろと妨害されたって聞いた事があるんだ」

「でも、そんなやばい組織があるんだったら、ふつうは養成院側が処罰するだろ?」

「それがさ、先生たちの中にもそれを支持す人たちがいるって噂だよ。確かその地下組織の名前も教えてもらったんだけどな……なんだっけ、ええっと……」


 随分とうさんくさい話になって来た。

 単なるリリカのいじめの犯人探しから、妙な地下組織につながるだなんて。

 しかし、貴族組の生徒達が作る地下組織だなんてものが本当にあるのだろうか。

 その時、シールズがぱっと顔を上げた。



「思い出した! 僕が聞いたその組織の名前……通称は確か、ウロボロスって名乗っていたって」

「ウロボロス……」

「僕たちの敵はウロボロスってことだね」

「敵? シールズお前、最近、なんだか物騒なことを言うようになってきたよな」

「だって、敵だろ。僕たち平民出身者を排除しようとする貴族連中なんだからさ」



 シールズはどこか紅潮したような顔で、唇をぐっと噛んだ。シールズの奴。出会った当初は貴族相手に事を荒立てたくない、なんてこと散々言っていたくせに。最近は、リリカの性格に引っ張られているのか、どこか凶暴になっちまっているような気がしないでもない。



「ま、とにかくだな。カンニング事件に関してはリリカが納得すればそれでいい。この話はこれで終わりにしよう。俺達が先生に言いつける必要もない」

「ちぇ……せっかく犯人が分かったのに、何もできないだなんて。なんだか悔しいなぁ」

「一番、悔しいはずのリリカがスンリをかばっているんだから、もう仕方ねぇだろ」

「でもなぁ……」



 シールズはいつまでも腑に落ちない表情でぶつくさとつぶやいていた。


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