表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
261/431

犯人探し?

 試験休みで十分な休息をとり、いつもの授業日程が始まった。


 と、同時に、俺に与えられた“鍵”。

 これは試験の成績上位者に与えられる特別な部屋“ルーム”の鍵だ。

 薄汚れたウォード鍵。楕円と直線の組み合わせの先に突起がある。いたってシンプルな鍵だ。

 鈍く金に光る鍵はまるで骨董品に近い。

 俺はその鍵を目の前の扉の鍵穴に差し回し、ノブを握ると“ルーム”の扉を奥に押した。


 扉の奥は、本棚とテーブルが並ぶ小部屋。

 後ろからついてきていたシールズが立ち止まる俺を押しのけて、走り込み先に進んだ。



「わぁ!! 少しせまいけどいい部屋だね!! 書斎ってかんじ!? いいな! ウル!」

「デスクに、ソファに応接テーブルか……自習室として使えってことかな」



 俺の背中から、どこか気まずそうなリリカの声がした。



「……わ、私も入っていい?」

「もちろん」



 俺は振り向いて笑顔を見せると、リリカを招き入れた。








 三人でテーブルを囲んでソファに座る。

 俺の隣に座るシールズがあちこちを見回しながら、まだ部屋の事について羨ましそうな声でぶつぶつと話す。



「いいなぁ。こんな部屋が与えられるなんてさ。僕も次の試験は頑張ろうかな」

「シールズ、もう部屋の話はいいだろ」

「え? あぁ、そうだね。じゃリリカ、どうぞ」

「はぁ……なんだよその言い方は」

「だって、今日はリリカの話を聞く為に集まったんだろ?」




 目の前のソファに縮こまり、リリカはうつむいて両手の指を絡ませている。もじもじと口を膨らませて黙り込んでいる。

 俺はリリカにやさしく話しかけた。



「リリカ、この前の試験の事なんだけど……俺たちには話してほしいんだ」

「え、あ、うん……でも……さ」



 この前からずっとこの調子だ。

 最初の頃、彼女に感じていた覇気がない。

 どこか自信を失っているようにも見える。

 やっぱり、すぐに何かを話すのはむつかしいかもれない。

 俺が気まずい空気を追い払おうと、話題を変えようとした時。




「ねぇ、リリカ。ウルは、キミの代わりにファイリアスたちに土下座したんだよ。あ、僕も巻き添えくらったけどさ。だから言いたくなくっても、きちんと、カンニングをした理由を話すべきだよ」



 あまりにも直球の問いかけに、俺は絶句するしかなかった。シールズは悪びれる様子もなく、リリカの顔をじっと見つめている。俺がリリカに目を戻すと、リリカは目を丸くして俺達を交互に見つめた。




「え……うそ。私の為に土下座したの……そんな事、いままでずっと言わなかったじゃない」

「だってリリカずっと僕たちを避けてただろ、言い出す機会がないんだから仕方ないよ、ねぇウル」



 俺は仕方なくうなずいた。




「そうだな。リリカはずっと俺達を避けてた。でもな、俺はずっとおかしいと思っているんだ。リリカは俺なんかよりもいい成績をとれるはずなのに、試験で不正行為なんてする必要があるんだろうかって」



 リリカはまた手を組んでうつむく。俺は続ける。




「リリカ、何か言いにくいことがあるんだったら、俺達は絶対に秘密にするから。正直に話してくれよ」



 シールズが「そうさ、僕たちは正義の騎士なんだから」とよくわからないセリフで追随した。

 リリカは眉をひそめて小さく唸ると、ようやく、その重い口を開いた。




「……実はね、古代語の試験の時に、私の机の中に古代語の教科書が入っていたの」

「……それで?」

「でね、私はその教科書の事なんてまったく気がつかなかったんだけど……試験後に試験官の先生に指摘されてようやく気がついたの」

「え? どういう事だよ? リリカは教科書の存在を知らなかったのに、それをリリカのカンニングにされたってこと?」




 リリカはどこか悔しそうな表情でコクリとうなずいた。

 シールズが腕を組んで、悩ましい声を上げる。




「なんだか、よくわからない話だなぁ……でも、どうしてそんな状況だったのに試験官の先生にちゃんと弁解しなかったの? ワルド先生の話だと、リリカが不正行為を認めたって話だったけど」

「だって、下手に言い訳なんかしても余計に話がややこしくなるだけでしょ。そこは素直に謝って私が置いたままにしていたかもしれないって言ったの」

「……あぁ、なるほど。下手に否定してもどうせ疑われるだけだもんね……」

「でしょ? 幸い、反省文と補習を受ければ大丈夫っていわれて。古代語の試験は未得点になったけど、他の試験は問題ないって言われたからさ……でも、本当はすっごく悔しかった」



 リリカの声が不意に曇った。その時の嫌な記憶を思い出したのか、少し目を潤ませる。

 リリカの教科書を、リリカが知らない間に、リリカの部屋から持ち出し、リリカの机に忍ばせる。俺は誰に言うでもなくつぶやく。



「でもよ……そんなことができる犯人って結構少なくないか?」



 俺がリリカに目をやると、視線が交差する。

 その目は俺の言葉に同意していた。

 しかし自分からその犯人の名を言う気もなければ、犯人探しもする気もないといった感情が読み取れる。つまり、犯人は、リリカに近しい人物の可能性が高いのかもしれない。




「リリカ、犯人を、捜そう」

「え? でも……」

「また同じことをされても黙ってるのか?」

「……ううん、そういうわけじゃないけどさ」



 シールズが突然勢いよく立ち上がる。その反動で俺の座るソファが後ろにズレた。


 シールズは天高く右の拳を振り上げた。



「よし! 犯人探しだ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ