謎の美女集団★
テマラの視点はここで終わり。
さて、ふたたび視点は主人公15歳のウルへともどります。
ではでは・・・。
昨日、三日間かけての全10科目の学科試験がついに終わった。
今日からは、しばらく“解放の日”とよばれる休暇に入る。
この期間は、家族や故郷の人たちがこの養成院の寄宿舎に訪れて、自由に面会できる日。といっても、俺に会いに来る人なんて、いるはずもない。
俺は寄宿舎の自分の部屋で一人。
寝台にねころんで読むともなく歴史書の本を開いてぼんやり過ごしていた。
コツ、コツ
ふいに、扉をたたく音が聞こえた。
俺は「はい」と返事をしながら足を上げた反動で寝台から飛び降り、扉に向かう。
扉を開けると突然足元から小さい声がした。
「ウル、面会」
「うわぁ!」
俺はおもわず片足を上げた。
目をこらすと、そこにはちょこんと床に座ったネズミ。
しかも奇妙な事に上品な黒のタキシードを着こなしている。ただのネズミ、ではなさそうだ。
「あ、あの……どちら様で?」
「オイラはマヌル紋章師養成院の伝達係ヒュウだ」
「あ、ど、どうも」
「お前に面会者がきている、ついて来い」
ヒュウと名乗ったネズミはそういうと、くるりと尻を見せつけてつつっと歩き出した。
「あ、ちょ、と」
俺は右手に持っていた歴史書の本を急いで後ろに放り投げた。
本はページをぱらぱらとめくりあげながら回転し、見事寝台の上にぼさりと落ちる。
俺はそのまま、ヒュウの後についていった。
ヒュウは突き出た尻尾を左右にふりふり突き進む。
階段を降りて廊下を回り、せわしない足取りでまるで迷うことがない。
このままいけば、たぶん外に出るが、思った通り、ヒュウは玄関ホールを突っ切ると、中庭に飛び出した。
日を浴びて輝く緑の芝の上にとびのってさらに進む。
まわりは生徒や面会に来た家族たちでにぎわっている。
少し先、なんだかひときわ目立つ人の群れに気がついた。
周囲からの視線を独占する謎の集団。俺の足は自然と固まる。
「え、ま、まさか……すんごい嫌な予感がする……」
大きな木陰のもとに、しなしなと座り込み優雅にくつろいでいるのはドレス姿の女たち。
まちがいない。“彼女たち”だ。
学びの場には似つかわしくないほどの過剰な色香を振りまきながら笑いあうのは、俺の知る娼婦たち。
ネズミのヒュウはそこにまっしぐらに進んでいく。
「ぐ……これは、ひき返すべきか」
しかし一足遅かった。
女の一人がふとこちらを見た瞬間、目が合ってしまった。あれは、デリアナ。
「あらぁ! ウル! ここよ!」
その声を皮切りに、周囲にいた女たちも一斉にこちらに目をやって同じく歓声を上げる。
「きゃあ! ウルちゃんだわ!」
「やだぁ! 制服姿のおとこって素敵!」
「あんた、何、言ってるのよ。ウルは、たかだか15のガキじゃないの!」
「ちょっと、およしなさいな。そんなはしたない言葉遣いは!」
もはや一足も二足もおそい。
俺は引き返すこともできず立ち尽くす。
周囲からの痛い視線を感じながら、肩をすぼめて仕方なく近寄った。
皆どこか面白がるような目で俺を見上げきゃきゃあと騒いでいる。俺は両手を前に構えて空気を押さえつけるようにすっと下におろす。
「と、とにかく、さ、騒ぐのをやめてくれっ」
彼女たちは首をかしげながらもひとまず従ってはくれた。
ふと見渡す限り、テマラの姿が見えない。俺はデリアナに聞いてみる。
「テマラは? きてないの?」
「あ、あの人。なんだかさっき、イイ女を見つけたとかいっておしりを追いかけていったわよ」
「はぁぁあああああ!? い、いい加減にしろよ! あの色ボケおやじ!」
彼女たちはともかく、俺はテマラを探すことにした。




