よるの勉強会
俺はひとまず、ファイリアス(とその不愉快な仲間たち)を追い払えたことで、ほっと一息ついた。
どうやら平民は平民、貴族は貴族、同種族は同種族で自然とグループをつくってしまうようだ。
おなじ性質の者同士が集まるってのは、もう生き物の習性ってやつなのかもしれない。
ちらりと見るとリリカは頬を膨らませてじっとファイリアスの背中を睨んでいた。
怒ってますねぇ、これはマジで。
そんな時に、シールズが肉をかみちぎりながら、俺を見上げて余計な一言。
「あ~あ。あのさ。その成績勝負、僕はたぶん全く役に立ちそうもないから、二人で頑張ってね」
その時、バンっとテーブルをたたく音。
リリカがシールズを目で威圧している。
牙でも生えてくるんじゃないかというくらいに、口を大きく開いてリリカは言った。
「シールズ! 逃げるなんて許さないから! 今日から毎日徹夜で勉強よ! あんな馬鹿貴族にまけてたまるもんですか!」
その日から、一回目の試験まで、俺達の戦いの日々が始まった。
というよりもリリカの売った喧嘩に付き合わされているだけ、ともいえるけれど。
俺たちは時間があるときには、集まって勉強会をすることにした。
養成院の自習室が閉まってしまう夜中には、シールズの部屋に集まることにした。
シールズの部屋は、ちょうど俺とリリカの部屋の中間くらいの距離にあったからだ。
シールズはあからさまに迷惑そうだったけれど、リリカの圧に負かされて仕方なく従っていた。
ある夜。
俺がシールズの部屋の扉を小さくノックすると、リリカが応じた。
扉をくぐるとそこから中のすべてが一望できる狭い部屋。
寝台に机に棚。
たったそれだけが置かれた素朴なひとり部屋だ。
寝間着姿のシールズは机に向かって分厚い本に目を落としていた。
俺に気がつくと「やぁ」と半分閉じかけた目をむけた。
リリカは寝台にちょこんと乗っかってシールズに質問を始めた。
「じゃ、次の問題よ、シールズ。旧オリト時代に、魔獣の頭蓋骨をつかって作ったお椀型の食器の事を何という?」
「ええ……と、なんだったっけ、ずがい……ずう、なんだっけ。しってるんだけどな」
「もう! さっきも出した問題よっ。正解は頭士殻器よ」
「ああ、そうだ、そうだ。覚えてるんだけどね、出てこないんだよね」
「あのさ、そういうのを覚えてないっていうのよ」
その後も、俺たちはお互いに一問一答の問題を繰り返して、ひと段落ついたころ。
ついにシールズが音を上げた。
「ねぇ、リリカ。今日はもういいだろ、僕もう、まぶたが重くてしかたない」
「……ふぅ、そうね。今日はこれくらいにしてあげる」
「やったぁ。明日は“魔獣学”の課外授業で一日外に出るし、体力を温存しておかなきゃ」
「そうね。それにしても、課外授業は初めてよね。私、すっごい楽しみ」
「たしか、明日は野生のモーフル(リスに似た小型魔獣)を見に行くんだっけ」
「そうそう、モーフルってモフモフしてて、すっごくかわいいらしいの。楽しみだなぁ」
「でもモーフルって見た目はかわいいけど、中身は凶暴らしいよ。あ、まるでリリカみたいだね」
「……ちょっとっ、それどういう意味よっ」
その時、扉の方から誰かの気配を感じて俺は慌てて二人に黙るよう告げた。
二人は目を大きく見開いたまま動きを止める。
しばらく三人で石像のように固まっていると、ほどなく気配は消えた。
俺は声を潜めてリリカに話す。
「……見回りの先生かもしれない、もうそろそろ部屋に帰ろう……」
「……おっけい。そのほうがよさそうね……」
俺たちは扉をすり抜けると、足音をけしてお互いの部屋に急いで戻った。
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ではでは。