表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/430

ランカの心 その①★




さてさて

ここですこし、主人公ウルから視点がはずれます。



ランカの視点に移ります……ではでは……。







 俺の愛する女性、リゼ・ステインバード。

 彼女は、ある時、盗賊団にさらわれ、凌辱され、そして全身を焼かれた。


 俺が彼女を盗賊団から救い出したとき、彼女の金に光る髪は焼け焦げ、片方の目は潰され、顔の皮膚はめくれ上がり、全身は真っ赤な肉と血にまみれていた。


 それでも彼女は生きていた。

 小さな声で泣いていた。

 ランカ、こわかった、と、震える声で言った。


 俺は一生、彼女のそばにいると決めた。

 そして這いつくばってでも、彼女の望みをかなえてやると決めた。

 それがたとえどんな残酷な結果を生む事になっても。




「……今日という日を、どれほど待ちわびたか……」




 俺は今、リゼの呪いの成就の為、夜の城下町を抜けて、ルルコット城に向かっている。


 今日はここルルコット領を治める領主の息子、マルコ様の生誕祭。

 今夜は夜通しこのルルコット城下町では飲めや歌えやのバカ騒ぎが繰り広げられる。


 あちこちの家の前の道には花びらがばらまかれ、夜の広場は煌々と明かりがともり、出店と町の人たちでぎゅうぎゅうだ。

 遠くから風に乗って陽気な管弦楽の音と楽し気な歓声が響いてくる。


 今日は、この城下町全体が、祝祭に酔いしれる日。

 その気のゆるみは警備にも如実に現れる。


 城の幽閉塔の最上階には”ニセモノ”のリゼ・ステインバードが閉じ込められているはずだ。

 あの真っ赤な呪いの指輪を右手の小指につけたまま。


 ”ニセモノ”のリゼを幽閉等から連れ出して剣を持たせる。

 そして主賓の集まるパーティ会場に解き放つことで、”本物”のリゼの願いが叶う。

 つまり、”リゼ・ステインバード”による、ルルコット家とステインバード家の女全員に対する処刑だ。


 あの赤い指輪にかけられた狂戦士の呪いはすさまじかった。

 俺も一度実際に効果を見たことがあるが、本当に人とは思えない動きで、一突きで目の前の女の息の根を止めるのだ。


 あの指輪を作るために力を借りた、呪いの紋章師。

 たしか”呪いの紋章師ゼルモ”と名乗ったか。






挿絵(By みてみん)






 薄汚い身なりの女紋章師ではあったが、その腕は確かなようだ。

 



 ”本物”のリゼの願いはルルコット家とステインバード家にかかわる女全員の死だ。

 それは、今夜、間違いなく成就されるだろう。


 リゼを捨てた者達、人生を謳歌する女たちへの復讐。



 俺はステインバード商人団の仲間と護衛数名と共にルルコット城門に向かっている。俺たちが囲む大きな荷台には酒樽がずらり。

 生誕祭では大量の酒がみなに振る舞われる。いくら酒を追加しても間に合わないほどだ。


 一台くらい予定外の荷台が来たところで、怪しまれはしない。

 城に続くはね橋を突っ切り、城門のまえに来たところで、門を守る衛兵にとめられた。

 門の両脇に立つ衛兵たちは槍を身構え、突き立てるような言葉で話す。



「おい、何の荷物だ?」




 俺は、一歩前に出て笑顔を作りつつ、衛兵の顔色を伺う。



「こちらは、ジェルべリーワインです。酒が切れるといけないと思って追加でお持ちしました」

「約束の時間よりかなりはやいが……?」

「ステインバード商人団のミカエル様から命じられたのですが、お話が伝わっていませんでしたか?」

「ああ、ステインバード商人団の方々か……しかし……」



 衛兵たちは、少し表情を緩めたものの、困ったようにお互いの顔を見合わせる。

 俺はすかさず手持ちの硬貨を差し出した。



「これは、ミカエル様からです。警備ご苦労様です」




 俺は金貨を衛兵に握らせる。衛兵たちはまんざらでもないような顔でうなずいた。



「よし、行っていいぞ」



 俺達は、馬鹿な衛兵たちを尻目に、すんなりと城門をくぐった。横目でちらりと荷台にならぶ酒樽を眺め、そっと手を置いた。荷台を引く大柄な商人団の男の背に告げる。




「もう少しだ、さぁ行こう」




 この酒樽の中はワインじゃない。

 俺以外の者たちは誰一人としてこの事実を知らない。

 皆、これはただの酒だと思っている。


 この酒樽の中身は、大量の蒸留アルコール。そして石炭と粉末硫黄の混合物。

 これをあちこちにばらまき、火をつければ爆発とともに、そこらじゅうが火の海になる。

 この酒樽を、パーティ会場に配置し、頃合いを見て火をつける手はずだ。



 ”女どもを殺し、そしてすべてを燃やしてほしい、私と同じ苦しみをあいつらに”



 それがリゼの望み。

 俺はその望みをかなえよう。俺にしかかなえられない彼女の望みをかなえよう。




「いや……これは望みではなく……呪いだ」



 俺は口元でつぶやき、暗い空を背に、目の前に現れたルルコット城を見上げる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ