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エマニュエルに捧ぐ(第8章 最終話)



 マアトの天秤の呪いが解けた後、俺たちは皆と共に、来た道を戻る。





 鍛冶師のラプスと、風の紋章師ネリギュルは、まるでペセタルを取り合うように両脇を固める。ま、自分のところの領主様だから特別扱いをするのは仕方がねぇと言えばそうだが。俺とリラには目もくれねぇ。実に無神経な奴らだ。


 俺とリラは、3人の後を追いかけるように、あぜ道をついていく。


 


 薄闇の森を抜け、不死人の集落を後にする。


 不死人の集落を通り過ぎた時、リラがふと立ち止まって、振り向いた。俺が数歩進んでもまだ来ない。俺は首を回してリラに声をかけた。



「おい、リラ。どうしたんだ。置いてっちまうぞ」

「……あ、うん。さっきの集落にいるたくさんの不死人の人たちにも、いろんな過去があって、いろんな理由があって、あそこにたどり着いたのかなぁって思ってさ……」

「そうかもな……おい、お前まさか。俺にあそこにいる全員の呪いを解いてまわれっていうんじゃないだろうな」

「ううん。そんなんじゃないけど……なんだか気になっちゃって」

「あ、そういえば」



 メディアベルに聞きそびれちまったことがあった。俺は背中の荷袋にちらりと目をやる。この荷袋の中には両の皿が空っぽになった“マアトの天秤”が入っている。


 そもそもだ、メディアベルがどこでこの“マアトの天秤”を手に入れたのか。不死人の集落で不死人たちと話をした時、何人かの不死人の話に奇妙な共通点があった。


 それはある“奴隷商人”と名乗る男の存在だ。そいつから、不死人の呪いを受ける呪具を渡されたという事だ。この“マアトの天秤”もその奴隷商人と名乗る男から手に入れた物だったのだろうか。そのときリラの声がした。




「どうしたのウル、今度は私が置いてっちゃうよ」



 視線を上げると、後ろにいたはずのリラは、すでに俺より先に進んでいた。俺は気を取り直して歩き始めた。





 峠近くの岩場で一晩を過ごし、俺たちはついに山をくだりきって森の終わりにたどり着いた。その時、木陰に大きな黒い馬が二頭。

こちらに気がついたのか、ぶるる、と嬉しそうに鼻を鳴らした。ネリギュルが大きな声を上げる。




「おお! お前たち、まさかずっと待っていてくれたのか、ペセタル様、行きましょう」




 ペセタルとネリギュルは喜んで大馬のそばに立ちよると、近くに置いてあった鞍を大馬に装着して飛び乗った。そして大馬の手綱をひいて、こちらを見る。ペセタルは、小妖精(フェイヨン)族の本来の姿のままだ。どこか、すっきりとした顔で話した。




「ウル殿。ここでひとまず、お別れですね」

「ああ……ところでよ、報酬を忘れないでくれよ。獅子の(リオン)金貨300枚だ」

「もちろんです。今度、わたくしの住むイルグラン城に取りに来ていただけますか?」

「面倒だ。ネリギュルにでも持たせて宿に持ってきてくれないか」

「それでは、わたくしの気が済みません。さきほどネリギュルとも話していたのです。今度、わたくしの城で行われる催事(さいじ)に招待したいのです」

「し、城に招待!? よしてくれよ。俺はそういうかたっくるしいのは苦手なんだ」




 その時ネリギュルが唐突に口をはさむ。




「おい。ウル。ペセタル様の招待を断ることなどさせんぞ。それに、城の催しには吟遊詩人のビセも呼び寄せよう」

「え? あぁ……ビセねぇ……」




 くそう。ビセをダシに使うとは。その名を出せば、リラが食いつくに決まっている。案の定、リラは目を丸くして俺の腕にとびついた。




「え! ビセさんとまた会えるの!? ウル! いこう! いいじゃない! ペセタルさん、ネリギュルさん、ありがとうございます!」




 ネリギュルはしてやったりと得意げに笑う。そして言った。




「それでは招待状を送るから、首を長くして待っていてくれ。さ、ペセタル様、急ぎましょう。数日、城をあけてしまいました、そろそろ皆が騒ぎ出す頃です」



 ペセタルは小さくうなずいて、こちらに頭を下げると、ネリギュルとともに勢いよく去っていった。



 その後、ほどなくラプスとも別れて俺とリラはラズモンの街にたどりついた。そして教会を目指す。エマニュエルの墓があるマルカブア通りのデウヘランのいる教会へと。






 教会には誰もいなかった。確か、デウヘランは昼間は隣町に出ているといっていたな。俺達は教会の裏庭に回り込み、草むらに広がる墓場を進んだ。


 そしてエマニュエルの墓標の前まで来ると、祈りをささげる。俺は背中の荷袋をおろして中にある木箱から“マアトの天秤”を取り出した。カラン、と音をたてて何も乗っていない両の小皿が揺れる。それを横で見ていたリラが口を開く。




「これで、エマニュエルさんの願いは叶ったのかな……」

「さぁ、どうだろうな。エマニュエルはただ、この天秤を息子であるペセタルに届けたかった。そこで彼女の願いは終わっていたんだ。その先、この天秤をどうするのかはきっと息子にゆだねたんだろう」

「ゆだねられた息子のペセタルさんは、その呪いを解いたんだね」

「そうだな」

「ね、ウル。メディアベルさんの魂はどうなったんだろう。きちんと冥界の門をくぐれたのかな。それとも大きな罪のせいで、この世をさまよう事になるのかな……」

「それは、俺にもわからねぇさ……だってよ、メディアベルの父親としての罪の大きさなんてものは、息子である、ペセタルの心が決めることなんだから」






 俺はゆっくりと膝をついて“マアトの天秤”を、エマニュエルの墓標にささげた。


 心臓も羽根も、何も乗っていない金色に輝く天秤。








 それは、あかるい日差しを吸い込んでキラキラとまぶしかった。

















 第8章 呪いの心臓編     完











ここで八章は終わりです!


ここまで読んでいただきありがとうございました!


ではでは。

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― 新着の感想 ―
[一言] ただ、ただ、名作よ。
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