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鍛冶屋のラプスと物売りのズゥルー



 俺たちは男に続き、あちこちに転がる武具をよけて天幕の奥に進む。



 てっきり石造りの建物のまえで天幕を広げて出店をしていたのかと思っていた。


 だが、どうやらその後ろの建物そのものが『ベルク竜具商人団』の本店らしい。でも、なんだってそんな店を隠すような真似をしているんだろう。俺は、疑問に思いふときいてみた。




「なぁ、いったいなぜ店の入り口の前に天幕をはって出店なんかにしているんだ。そんなことをしていたら、奥の店に客が来ないんじゃねぇのか?」

「ああ、まぁそうなんだが。うちの店主は冷やかしが嫌いなんだよ。なんせ“奥の店”の商品は、目玉が飛び出るくらい値段が高いからな」

「そうなのか。魔獣製品ってのは物によれば稀少(きしょう)だし、値が張るとは聞くが……俺の記憶では、そんなにべらぼうに高いというイメージもなかったんだがな」

「ま、一品一品ならばそうなんだが。うちの場合は“一式売り”をしているからな。どうしても高額になっちまうんだよ」




 一式売りか。なるほど、全部を抱き合わせて買わせるって寸法だな。


 確かに、頭から足先まで魔獣具装備を揃えるとなると、それなりの値段にはなるだろうな。なかなか、がめつい店主のようだ。歩きながらも男は話を続けた。




「それによ、うちの店主の場合は、その一式の組み合わせを自分で決めちまうからな。それ以外の組み合わせでは売らないって主義なんだよ。こだわりがあるというか、わがままというか。それで何度お客さんと揉めたわかりゃしねぇ。だから、俺も“奥の店”に案内するお客さんは選ぶようにしている」

「ほ、俺たちはお前さんのオメガネにかなったのかい?」

「ま……すくなくとも、後ろのお嬢ちゃんは合格だ。なにせ俺より商品の売り込みがうまい。さっきは俺が鉄装備を買っちまいそうになったぜ」




 男はそういうと、がははは、と豪快に笑った。そして扉の前に来るとかしこまって姿勢を正した。息をのんでから、ゆっくりと木の扉を奥へ押す。扉は音もなくひらく。俺達も男に続いて扉をくぐった。





 見上げて息がつまる。中は予想以上にだだっぴろかった。外から見た時、出店の後ろに石造りの建物が見えてはいたが、まさか、あの真四角の建物すべてが武具屋だったとは驚きだ。


 見渡す正面、よろい立てに立てかけられた様々な兜と鎧の組み合わせが三列にならびおくまでつづく。その様はまるで整列した軍隊のようだ。右側に目をやると、木組みに立てかけられた上に伸びる剣や斧、壁にもびっしりと弓やナイフがかけられている。几帳面なほどに向きや傾きの角度がみな同じだ。さっきの出店とは大違い。


 こりゃ武具屋というよりも、武具倉庫だな。しかも恐るべき数。ひとつの小隊(40~50名)分くらいの武具は余裕でありそうだが。俺が言葉を失っていると男はわらった。




「がははは! お客さん、どうしたんだい! そんなにポカンと口をあけていたら、そこから魂が逃げだしちまうぜ」

「……こりゃすげえや、想像以上だ……まるでいまから戦争でもおっぱじめるのかって感じだ」

「だろ。さ、店主は奥にいる、案内するぜ」




 その時、すぐ先の鎧がしゃべった。




「おい、ワシならここにおるぞ、このでくの坊め」




 男はかたをすくめ、慌てて鎧のほうを見て返事をする。




「おっ、ラプスのおやじ、そんなところに隠れていたんですかい」

「べつにかくれとりゃせんわい。それよりも、ズゥルー、お前、能力値の水晶石(アビリティストーン)を知らんか?」

「へ? 水晶石なら表の出店にありますぜ?」

「なんじゃとっ! ずっとずっと探しまわっておったのに! わしの今までの時間を返せっ!」




 しわがれた声の主は居並ぶ鎧の隙間から、ぴょこぴょこと歩み出てきた。小柄な初老の男。随分と体が小さいが、妙にがっしりと太い首に、小山のような体躯。このじいさん、異種族か。この容貌からしておそらく土小人(ドワーフ)族。


 初老の男はびしっと決まった革製のつなぎに身を包んでいる。艶のある黒革。頭は禿げ上がっているが、そのかわりに、というのもなんだが顔の下半分は真っ白の毛がもじゃもじゃと茂っている。ラプスと呼ばれは髭もじゃの男は、俺たちに気が付くと、警戒のまなざしをむける。そしてズゥルーと呼ばれた男に話しかけた。




「おい、なんじゃこいつらは、ズゥルー」

「そんな言い方ないですぜ、ラプスのおやじ。こちらは、お客さんですぜ」

「客? そんなみすぼらしい格好をした男が客なもんか。おい、どこのどいつか知らんが、冷やかしならよそでやってくれ。ここにある武具の値段は貧乏人なんかに手の出る金額じゃあないんだから」

「こらっ、おやじさん! 失礼ですぜ! そんなことばっかり言ってるから、一般のお客さんが寄りつかないんですよ」

「一般の客なんぞには表の出店においている武具でも売りつけておけばよろしっ!」

「はぁ……まいったなこりゃ。すみませんお客さん、中は俺が案内しますんで」

「おい、それよりも先に能力値の水晶石(アビリティストーン)をもって来んかい!」

「はいはい、わかりましたよ……お客さん、すまないね。ちょっとまってておくれよ」




 ズゥルーは俺にそういうと、俺をかわし、もう一度外に出た。すぐに水晶石を手にして戻ると、ラプスに手渡す。ラプスはなにかぶつぶつと小言を言いながら再び鎧の奥に消えていった。ズゥルーは申し訳なさそうな表情で俺に頭を下げると、俺たちを店の奥に案内してくれた。武具の隙間を抜けながら、俺はズゥルーの背中に問いかけてみた。




「なぁ、さっきのじいさんが店主なんだよな?」

「ああ、一応はね。でもお客さんとのやりとりはほとんど俺がしているのさ。ああいう性格だから客商売は不向きでね」

「じゃ、なんだって武具屋なんてやってるんだよ」

「ラプスのオヤジは鍛冶職人なのさ、それに加工屋でもある。とにかくここにある武器や防具の作製のほとんどに携わっている。言ってみればここにある物はすべてラプスのおやじの作品といっても過言じゃないんだ。だから、売るにしても、かならずあのおやじの許可がいるのさ、めんどうくさいったらないんだが」

「なるほどな……たしかにあれじゃ、物を売るどころか、ケンカを売ってるだけだな」




 俺の言葉に、ズゥルーは、がはははと部屋中に響き渡る声で笑った。


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