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とらぬたぬきの皮算用ってか



 水晶石をはさんで店主の男と俺が能力値の水晶石(アビリティストーン)について話し込んでいると、すっとリラが俺たちのすきまに割って入ってきた。リラは水晶石を興味深そうにのぞき込んでいる。ちらりと視線を落とした店主の男がリラに声をかけた。




「お、どうしたんだいお嬢ちゃん。この水晶石が気になるのか?」

「ええ。なんだか面白そう……武器の強さが分かる水晶石だなんて見たことない。どんな魔術式をつかっているのかなって思って」

「さぁねぇ、その辺は俺みてぇな物を売ることしかできねぇ馬鹿な男にはわからんよ」

「……ウル、ちょっとその手に持っている剣、貸してみて」



 俺が剣を手渡すと、リラは右手にブロードソードを取り左手を水晶石にあてた。数値が浮かぶ。




“19”




 さっき、俺が出した数値と同じだ。が、リラはみけんにしわを寄せ、その数値とにらめっこをしている。俺は店主の男と目が合った。店主の男は軽く首をかしげる。すると、リラは、武具屋のあちこちから、かわるがわる防具を右手に持っては、左手を水晶石にあてて、数値を確認していく。素早く次々と。


 俺と店主はしばらく黙って事の成り行きを見守っていた。いつからか俺の隣にビセも加わり、ちょこまかと動くリラを眺めている。ビセが俺のそでを引っ張る。見ると耳を貸せという仕草。俺はビセの顔の前に耳を近づける。ビセのひそひそ声。




「……ね、いったいどうしたの、リラ。何かにとりつかれたみたいに駆けまわっているみたいだけど」

「さぁ……武器や防具の強さが気になるのかな。意外だぜ……こういう場所は嫌いだと思っていたがよ」

「……ついに戦士の血が騒ぎだしたのかしら。ああいう子って怒らせると絶対怖いからね。盗賊どもにやられて、ぷっつんきたのかしら」

「お前じゃあるまいし、リラはそんなに間抜けじゃねぇよ」

「はぁ? ちょっと! なによその言い方!」




 ビセは俺の耳をぐいっと引っ張った。




「いてえ! おまっ! なにしやがんだ! 俺の大事な耳がちぎれたらどうすんだ!」

「ふん! 余計なことを言う口も、ついでにもぎとるわよ!」

「いてぇ……ふむぐぐ、んぇに、しやがん……むぐ」




 その時、リラの明るい声が俺たちの争いを終わらせる。




「できた! ね、店主さん、何か書くものないですか?」

「書くもの? あぁ……ほらよ」




 リラの言葉に店主の男は腰の小袋からしなびた茶色い羊皮紙を取り出し、胸のポケットから羽根付きのペンをさしだす。リラは受け取ると、近くにあるテーブルに走り寄り懸命に何かを書いている。俺達は顔を見合わせて、リラに近寄る。その背中から覗き込んだ。


 見ると、羊皮紙にはさっき調べたであろう数値が並んでいるが、その隣にもリラはさらさらと何かを書き込んでいる。そして、書き終えたものを俺に見せて、笑顔で話す。




「これで、見やすくなったわ」

「リラ、なんでぇ、こりゃ」

「鉄製の装備一式の防御と攻撃をまとめたものよ」

「ほう、ほう」




 俺は羊皮紙を受け取り眺めた。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

鉄の装備:対 鉄

右手:鉄の剣  :19

       

左手:鉄の小盾 :43       

腕:鉄の籠手  :6

体:鉄の胸あて :31

腰:鉄の腰当  :15

ひざ:鉄の脛あて:13

頭:鉄の兜   :7


総攻撃力:19

総防御力:115

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 俺は羊皮紙を眺めながらリラにたずねる。




「うまくまとめているが、これだと攻撃力と防御力に随分と差が出るよなぁ……」

「そうなの。最初にウルが鉄のブロードソードを持った時に出た数値が19だったでしょ」

「そうだな」

「その時、店主さんはそれが“鉄製のブロードソードが鉄製の防具を破壊できる回数”といってた」

「よく聞いてたな。しかし“鉄製の防具”といったって鉄製の防具は体の部位によっていくつもある」

「そうなのよ。だから”19”という数値が何の数値なのかなって思ったの。だから、いま勘定をしてみたら……19という数値は、頭、腕、胸、腰、足、そして盾を含んだ、6種類、すべての防具の数値を6で割った平均の数値になるのよ。つまり鉄製の防具のすべての合計数値が115で、それを6つに分けた数値が19になるわけ」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

鉄の装備:対 鉄

右手:鉄の剣  :19

       

左手:鉄の小盾 :43       

腕:鉄の籠手  :6

体:鉄の胸あて :31

腰:鉄の腰当  :15

ひざ:鉄の脛あて:13

頭:鉄の兜   :7


総攻撃力:19

総防御力:115 (÷6= 19)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 なるほど。だったら必然的に攻撃力の数値が低く出るというわけか。うなずく俺に気をよくしたのかリラは俺から羊皮紙を奪い取り、また何かを書き足して再び俺に手渡してきた。そして話をつづける。




「でね、鉄に対しての鉄装備の数値はいいとして……じゃ鉄装備に対して“木の装備”での数値を出すとどうなるのか調べてみたの。その結果がこれよ。やわらかい“クロスギの木製の装備”の数値から換算してみたの……だいたいこんな感じ。攻撃の数値に関しては破損に至る回数から逆算で大まかに出して……」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

鉄の装備


:対 鉄           :対 クロスギの木

右手:鉄の剣  :19    → 70

       

左手:鉄の小盾 :43    → 115

腕:鉄の籠手  :6     → 15

体:鉄の胸あて :31    → 108

腰:鉄の腰当  :15    → 37

ひざ:鉄の脛あて:13    → 20

頭:鉄の兜   :7     → 11


総攻撃力:23        → 70

総防御力:115       → 306

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 俺は渡された羊皮紙にある、左と右の数値を見比べる。


 あらら、随分と印象が変わるなこりゃ。単純に3倍から4倍に跳ね上がるって感じか。しかし、逆に考えると、鉄よりも強い素材に対して数値を出した場合は、攻撃力も防御力も極端に下がっちまうってことにもなり得るってことか。


 基本的に、防具のほうが単純に数が多いという意味で、防御力の数値が総数で高くでてしまうのは、仕方がないところか。



 その時、俺の後ろ、肩越しからの声が耳をくすぐる。




「ほぇぇ、お嬢ちゃん、今の一瞬でこれだけの事を考えていたのかい、すんげぇなぁ。俺なんかよりも、はるかに商売上手だぜ……」

「のわっ! お、おい、店主! 近いぞ! いきがぬるい!」

「おおっと、こりゃすまないね、お客さん。で、何か買うのかい、買わないのかい。一番大事なのはそこだぜ?」




 俺は羊皮紙から目を外して振り返り、店主に向き直る。




「そうだな……ちょいと気になるんだがよ」

「おう、なんだい。あんまりむつかしい話はよしてくれよ」

「ああ、いや。ここはベルク“竜具”商人団って名前だろ?」

「そうだぜ」

「だよな。だから、俺は、てっきり竜具関連の武器や防具があるのかと思ったんだが……」

「ん……? お客さんそっち系をお望みなのか。でも、竜をはじめ魔獣たちの皮や牙をつかった武具類はとっても高価だぜ。まず銅貨じゃ無理だ。最低でも金貨以上の支払いが必要になるんだが」

「まぁ、正直、そのへんは大丈夫なんだが……でも、この店を見たところ、そういうのはなさそうだな」





 店主の男はむすっと黙り込んだ。男は少し店内を見渡した後、もう一度俺に視線をとめた。なんだかさっきと違って妙に真剣な目つきになった気がするが。ま、今の俺のセリフは“この店は品ぞろえが悪い”といっちまったも同じだからな。怒らせちまったかも。


 すこしの気まずい沈黙を破り、店主の男は言葉を継いだ。



「……ううむ、どうしようかな。基本的に“奥の店”は初めてのお客さんはお断りなんだよな……でも、さっきのお嬢ちゃんの働きに免じて、俺が店主に頼んでみよう」

「え? 店主? お前さんが店主じゃなかったのか?」

「何を言ってんだい、俺は単なる下っ端さ。でも俺の事を店主と思ってくれたのかい。うれしいねぇ。とまあ、そんなことはいいか。本物の店主はこの天幕の後ろ、その建物の中にいるよ」




 店主じゃなかった男はそういうと、後ろの建物を指さした。よく見ると天幕の後ろ、建物の壁には扉があった。まるで開かずの扉のように、固く閉じられている。男は俺に告げる。




「中には、魔獣具や竜具、それなりの品ぞろえがある。カネの準備はいいかい?」



 俺は男に宣言する。



「俺、金払いはいいとおもうぜ」

「よしきた! 中に案内しよう」


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