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ゼデク王立図書館って質素な建物なのね

 王都の安宿に泊まりはじめて数日。


 ある朝早くに、俺の部屋に男が訪ねてきた。そいつはペセタル・イルグランの使いだと名乗ると、胸に抱えていた木箱を俺に押し付けるように渡してきた。


 そして、小さな封筒を木箱の上にぽんっとのせると、さっさと背を向けて廊下の向こうに消えていった。俺はついつい男の背中を睨んで小さく文句を言った。もちろん聞こえない程度の声で。



「……ちっ、なんだよ。あの態度は、朝っぱらから胸糞の悪い奴だ」



 俺はつぶやきながら、木箱を両手に抱えて部屋の中に戻る。寝台横のテーブルに木箱をことりと置いた。おそらくこの木箱の中身は以前ペセタルが届けると言っていた“マアトの天秤”だろう。


 俺は木箱の上にのせられた封筒を開くと中から羊皮紙を取り出した。そこにはまず最初に“お詫び”がかかれていた。おそらくペセタルの直筆で。




“まず、配達屋の男の無礼な態度をおゆるしください”




 ほうほう、よくわかっていらっしゃる。その文字の後には、町の名前と番地がひっそりとかかれていた。まるで秘密を伝えるように。おそらくここへ行けという意味だろう。この番地に“マアトの天秤”をペセタルに送り付けた人物がいるという事だ。俺は手紙から目をはなすと、しばし、ぼんやりとする。


 俺の向かいの部屋にはビセとリラが二人で寝泊まりしている。あいつらはこの旅路の最中に妙に仲良くなっちまった。ここ最近は毎日二人で王都の見学に出かけるほどだ。今日も朝早くから、二人してあちこちの衣類店や雑貨屋、食事処なんかをめぐっていく計画を立てていたかな。ただ、この宿での生活も一旦終わりを迎えそうだ。俺のもとに、目当ての荷物が届いた以上は、王都にいる理由は今しがたなくなったのだ。


 今日も夕方ごろまで二人は戻らないだろうから、二人に話すのは今日の夕飯時かな。二人が戻るまでは、俺も自由時間だ。お目当ての場所に行くとしよう。俺は身支度を始めた。








 俺の向かった先は『ゼデク王立図書館』だ。



 様々な分野の書物が世界中から集められ、保管されている図書館。この国一番の蔵書数を誇る王立図書館だ。だだっぴろく横に長い石段を踏みなしめがら見上げると大口を開ける古びた石門。威圧感に気おされながらくぐり抜ける。


 目の前に広がる整備された公園広場。その先、真四角な外観の建物が姿を現す。ふと、立ち止まり周囲をみわたしても、陽気の公園広場に人は少ない。俺は人影を横目に公園をぬけて図書館の玄関ホールに入り込んだ。



 途端、すぐ右手のカウンターの奥から声がした。声につられて首を向けるとカウンター越しにこちらに向かって歩いてくる若い男。なまじろい顔の下は、白いローブに包まれている。男は目を細めて会釈する。俺も軽く頭を下げて話す。




「広い図書館だっていうのに、あまり人がいねぇな。もったいない」

「……もしかして旅のお方ですか?」

「え? そ、そうだが」




 俺はドキリとした。いったいぜんたいどうして分かっちまったんだ。俺は自分の格好にすっと視線を落とす。今日はそれなりに小奇麗にしたつもりだが、王都人っぽくない格好、つまりは田舎者くさい格好をしてしまっているのか。どこか気恥ずかしさを感じた俺の心を悟ったのか、白ローブの男は釈明のように言葉を継いだ。




「あ、ぶしつけな質問でした。もうしわけありません」

「いんや……別に。実際に俺は“旅のお方”だからな」

「そうなのですね。私があなた様を旅のお方だと思ったのは、あなた様の質問の為です」

「質問で田舎者ってわかるとは、おそれいった。心でも読めるのかい?」

「いえいえ。今は八頭会議の期間中です。八頭会議の期間中は基本的に街の皆は余暇の為の外出を控えるものです。そのことをご存じない、とおもいましたので」

「なるほどね。ま、人が少ないほうがありがたいね」


 


 男は深茶色(ダークブラウン)の分厚いカウンターの上に置いていた厚い革表紙の本のページをひらき、隣のペン立てにあった羽根のついたペンを抜き取り俺に差し出した。



「恐れ入りますが、この『ゼデク王立図書館』の蔵書は王都に住む方々以外には貸し出し禁止となっております。部外の方の入館時には、書物を持ち出さないことを約束するこちらの誓約書に署名を頂いております」

「フレイブル聖都市の教会図書館とは違って随分と厳重だな」


 男は「当然です」といわんばかりに小さくうなずいた。俺はカウンターによると名前を書き記した。男は小さく礼を言うと「ごゆっくりどうぞ。“検索の水晶石(サーチストーン)”は奥にございます」と言い残してくるりと俺に背を向けた。そしてカウンター奥のテーブルに戻り椅子に優雅に腰かけた。



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