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俺ってじつは国王の息子なんです

 豪勢な箱馬車の中。


 さすがに高級な送迎用の箱馬車だけあって揺れは最小限だ。座席にはふかふかの毛布が敷きつめられている。尻も全然痛くない。今から仕事に向かう途中だ。


 先日、俺の屋敷を訪れた吟遊詩人のビセの依頼を受けることにしたのだ。向かうは依頼主であるイルグラン家の居城。


 俺の隣にはリラが座り、前の席には向かい合うようにして今回の仕事を持ち込んできた吟遊詩人のビセが陣取る。相変わらず頭に乗った奇抜な帽子がゆらゆらと揺れている。ビセはさっきから腕を組み、意味深なまなざしで俺たちを交互に眺めている。


 なんだ、その妙な視線は。俺たちの関係を説明しろといわんばかりの疑いの目。俺はその目に誘われるようについ口を開く。




「なんだよ、さっきからじろじろ見やがって」

「うーん……どう見ても親子には見えないわねぇ……まず種族が違うし。あ、それとも獣人族と人間族の間にできた愛の結晶かしら?」

「けっ、お前さんはいちいち表現がくせぇな。愛の結晶だとか、なんだとか」

「あら、アタシは歌い手よ。物事を素敵な言葉で表現しているだけ。で、答えになってないわよ。”愛の結晶”なの? そうでないの?」

「お前さんにゃ、関係ないだろ」

「そんなもったいぶらずに教えてくれてもいいじゃない。アタシは行く先々で出会った人たちの話を聞いて歌の題材にするのよ。人間と獣人の許されざる恋、だなんて素敵じゃない!」




 俺はため息をついて、リラのほうに顔を向ける。すると、リラがくすりと笑って手で口元を押さえた。そしてリラがビセに視線を移した。




「ビセさん。私たち、親子です」

「え!? そうなの? これは予想外の返事だわ!」

「ただ、親子といっても血のつながりはありません」

「あ~、ガックシ……なるほど。里親ってところかしら」

「まぁ、そんなところですね」

「へぇ……リラちゃん、だっけ。あなた見たところ、容姿的にはエルフ族っぽいよね、でも黒い肌のエルフなんて見たことないけど。いわゆる亜人族(さまざまな種族が混じっている混血)かしら?」

「ええ、まぁ……」




 これ以上はしゃべらせるとまずいな。どこでダークエルフ族と気づかれるかわからん。俺は会話に割って入った。



「おっと、それ以上の詮索は無しだ。ビセ、お前さん、初対面にしちゃ、ちょいとぶしつけだぜ」

「いいじゃないのべつに。ま、イルグラン家の領地までの道のりは長いんだし。徐々に仲良くなりましょ! ね! リラちゃん」




 リラは笑顔で「はい」と返した。俺は話を変えてビセに聞いてみる。




「でもイルグラン家、つったらよ。俺たちの屋敷がある聖都市フレイブルからじゃ、王領(国王管轄の領土)をさけてぐるりとまわって国の反対側に回らなきゃならねぇだろ。こんなトロトロした箱馬車じゃ、何日かかるやら」

「そんな面倒なことするわけないでしょ、王領の中に入って王都を突っ切るに決まってるわ」

「へ? でも王領に入るには“通行証”がいるだろ、お前さん持ってるのか?」

「あったりまえでしょ。道化師をなめちゃ駄目よ。アタシたちは王都の催事にもよばれたりするんだから、それくらいのツテはあるの」

「へ、こりゃおみそれしましたな」




王都か。おれはどこか憂鬱になる。座席に深く沈んだ俺を見てビセが顔をしかめる。





「なに? 王都にいきたくない理由でもあるの?」

「うん? いや、まぁ……な」



 行きたくない、というよりも、行くべきではないといったほうがイイのかな。

 

 俺たちの住む『エインズ王国』の王領中央部にある『王都エインズ』には当然のごとく、今の国王がいる。その現国王ってのがだな、何を隠そう俺の父親『アルグレイ・べリントン』なのだ。


 俺を七大貴族べリントン家から追放した張本人。まさかあのオヤジが国王にまで上り詰めちまうとは。


 いまじゃ、歴代王の中でも最も優れた王の中の王キング・オブ・キングスとすらいわれている。


 たしかに俺の物心ついた時から、その片鱗はすでに見せていた。オヤジは15歳の頃の『天資の儀式』で4つの紋章を授かった。剣と魔法に秀でた類まれなる『紋章師』だったのだから。

 かつて、べリントン家に生まれ落ちた出来の悪い次男坊(おれ)のことなど、とうの昔に記憶のかなたに消し去っているだろう。


 よくよく考えりゃ、俺って国王の息子なんだよな。


 なははは。ま、そんなことにはとんと興味がねぇが。


 それにしても、どうにも、この旅路はなにか嫌なことが起こりそうな気がしてしまう。俺の口から、また大きなため息がこぼれ落ちた。




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