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吟遊詩人のビセ



 山奥から都市部に引っ越して、はや数十日。


 ようやくこの聖都市フレイブルの生活にも慣れてきた。リラの奴も街のあちこちを見て回りなんとなく“今の時代”にも馴染んできたようだ。


 毎日フレイブル孤児院に通って子供たちの世話をするうちに、そこの子供たちとも随分と仲良くなったようでひと安心といったところか。


 笑顔の増えたリラをみるとホッとする。リラをフレイブル孤児院の子供たちと引き合わせたのは正解だったようだ。それに孤児院に行くたびに巨乳美人の修道女アプルとも会えるし、むふふな一石二鳥ってこういうことなんだな。賢いぞ、俺。




 さて、自画自賛が済んだところで、仕事に移ろう。


 今回の客は街の連中とは少し違うようだ。俺の屋敷の応接間。


 目の前のソファから立ちあがり、自己紹介といいながら突然歌いだしたのは若い女。


 彼女は吟遊詩人(ぎんゆうしじん)のビセとなのった。歌をうたい各地を回る道化師だ。それにしてもなんとも奇抜な格好。黄色いとんがり帽子、つばには何かの鳥の羽が飾り付けてあり、彼女が歌にあわせてうごくたびにひらひらと揺れる。


 深紅のマントを羽織ったビセは、ひと歌うたい終えて得意げに笑った。



「ね! どうかしらこの歌。これは騎士が初恋の相手を思って遠くの戦地で戦いに明け暮れるという愛の歌なの」

「ま、なかなか良かったよ。あいにく愛だなんて俺には縁遠い話だからピンとこないがな」

「やだ、寂しいこと言わないでよ。あなた独り身? 孤独は心を殺してしまうわ」




 ビセは歌の余韻が消えないのか、くさいセリフをはいた。そして満足そうな顔でソファにゆっくりと腰かけて話をすすめた。




「じゃ、お仕事の話ね。実は、今回の依頼はアタシのものじゃなくてたのまれごとでね、ここから西南、王都の向こうにあるイルグラン家からなの」

「イルグラン家……七貴族のひとつか。でもどうして吟遊詩人のお前さんがイルグラン家の伝書鳩の役目をするはめに?」

「アタシは吟遊詩人であちこち旅してまわっているからね。そこでちょうどこのあたりも旅して回るって話をしたら頼まれちゃってさ~。めんどうくさかったけど、貴族様からの頼まれごとだし、謝礼もはずんでくれたからね。で、ちょっとこれを見てほしいんだけど」




 ビセはそういうと足元に置いてあった四角い木箱をテーブルの上にどんと乗せた。上の蓋をあけると手早く中から何かを取り出してテーブルの上に置いた。


 中から姿を現したのは、金色に輝く天秤てんびん


 台座からT字型の支柱がのび、両側には丸い皿が鎖でつられている。一つの皿は空っぽ、もう一つの皿の上、一瞬、何かわからなかった。しかしそれは小さく波打っている。俺は顔を近づけて目を凝らす。つい言葉がもれた。




「お、おい……この皿に乗っているのは……なんか動いてんぞ?」

「心臓よ」

「ぼぉえええええええ!」



 俺は一気に顔をはなしてソファにもたれこんだ。平然としているビセに問いかける。




「これが心臓だって? しかもこの心臓うごいてるじゃねぇか!」

「そうよ。この心臓の主は生きているらしいからね、動いているのも当然ね」

「お、お前なぁ……よくそんな平然としているな」

「あちこち旅しているといろんなものにお目にかかるからね、で、依頼の内容なんだけど。この心臓の持ち主を探してほしいらしいのよ」

「し、し、心臓の持ち主だと?」

「ええ。でさ、依頼を受けてくれるのくれないの? もしも依頼を受けてくれるんだったらアタシはあなたを依頼主のもとまで送り届けなきゃならないから」

「そ、そうだな……まぁ報酬次第というところか」

「報酬? あのさ、依頼主は大貴族のイルグラン家よ。アタシがこの依頼をここに頼みにくるだけで金貨50枚を謝礼でぽんと出すくらいなんだから、きっと満足のいく報酬は期待できると思うけど?」

「ああ、まぁ返事は後日するよ」

「アタシは宿に泊まっているから。宿の名前と部屋の番号をおしえておくわ、早めに返事ちょうだいよ!」

「はいはい、わかったよ」




 ビセを屋敷から送り出した後、俺はしばし考えた。


 ここからイルグラン家の治める領地に行くとなると移動だけで数日かかかる。リラをこの屋敷に一人にしておくのはどうにも心配だ。


 別にあいつは一人でも十分に生活はできるが、ダークエルフ族の生き残りであるという部分がひっかかるのだ。なにせ強大な魔力をもち様々な魔術を扱える伝説の一族の末裔なのだ。変なやつらが寄りついてこないとも限らない。孤児院から帰ってきてから一度相談してみるか。





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