リラ(第6章 最終話)★
俺はリラを抱えながら地上に飛び出した。乾いた空気が懐かしい。後ろを振り返ったと同時に入り口がぼんやりと滲み、やがて周囲の景色に溶けていった。
リラを抱えたまま俺が突っ立っていると、後ろから声がした。振り向くと、メビウスが呆然と口を開く。
「……千年遺跡の入り口が、消えてしまった……」
俺と落ち込んでいるドネシアはそのまま、天幕を張った小さな野営地にもどる。そこには残りの2人が待っていた。
何から話そうかと思ったが、2人は俺に抱きかかえられたリラを見て目を丸くした。真っ赤な髪のアニストが声をあげる。
「まさか、え? その子ダーエルフ? いやそんなはずはないな。ダーエルフはすでに……」
「そのまさか、なんだよ」
俺はそう答えるとひとまず、リラを天幕のなかにある寝台に運び寝かせた。
皆が後ろからもの珍しそうな顔で覗きこむ。
アニストがつぶやく。
「綺麗な顔だな、女から見てもほれぼれするよ」
リヒが猫耳を揺らして笑う。
「だねー、それに、気持ち良さそうに寝てるねー」
俺は立ち上がってメビウスに目配せして、2人で外に出た。メビウスは今回の仕事の依頼主だ。経緯を話さないわけにはいかない。俺はかいつまんで話した。メビウスは表情を崩さず、小さな相槌をうちながら聞いていた。
冷静を装っているつもりだろうが、明らかにへこんでるんだが。ちょっと罪悪感。俺が話し終えるとメビウスは小さくため息をついた。
「わかりました。にわかには信じがたい不思議な話ですが、あのダークエルフの少女がなによりの証拠ですね。しかし、千年遺跡が消えてしまった以上、今回の仕事はなくなりました。ワタクシたちも解散ですね」
「なんだかすまないな。お前さん達の出番がなくなっちまった」
「ワタクシはかまいません。あの2人にはワタクシから説明させていただきます」
「ありがとよ」
ドネシアはふと、俺の右手に視線をうつして言った。
「先ほどから気になっていたのですが。その右手に握っているものはあの人形ですか?」
忘れてた。俺は右手を開き、前に持ってきた。
そのとき、手の中にあった黒いうさぎのぬいぐるみは、音もたてずに静かに崩れていく。
「あ……」
ぬいぐるみは、いま、千年の役目を終えて、風に舞い散っていく。不意によみがえりかけたキャンディとの思い出を無理やりおさえつける。
お前の事を思い出すのは、ひとりの時にしよう。
俺は空っぽの右手につぶやいた。
「キャンディ、お疲れさん」
第6章 まぼろしの千年遺跡編 完
ここまで読んでいただきありがとうございました!
これで6章は終わりとなります!
また続きのお話を書ければと思っています!
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