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勝手にいってちょうだい★


 ステインバード商人団の拠点。

 団長ミカエル・ステインバードの邸宅は3階建ての乳白色の煉瓦屋敷。

 いったいいくつ窓があるのか。煌々と明かりの漏れている窓もあれば、そうでない窓もある。

 俺はひとまず、表通りから外れてひと気のない細い道へ入り込む。


 屋敷の裏に回り込み、大きな石壁の前に忍び寄って背中をぴたりとつけた。

 その時、胸ポケットから。キャンディのひそやかな声が聞こえてきた。



「……こんなだだっぴろい屋敷の中から、どうやってランカを探し出すの」

「ランカは護衛だ。どこかで見回りでもしているだろう」

「なんだか、無計画じゃない?」

「こういう時は勢いが大事なんだよ。重要なのは計画じゃなくて勝機だ」



 俺は言い終わると同時に、思い切って地を蹴った。

 ふわりと体が浮かび一回転、塀を飛び越えて庭に音もなく着地する。



 近くの植木のもとに近寄ると、身をかがめて周囲に目を配る。

 随分と警備が甘いようだ。

 見かけ倒しの要塞か。見栄っ張りの金持ちがやる事なんざこんなものだ。


 それとも領主にひいきされている自分の屋敷に侵入者など来るはずがないというおごりかもしれない。

 どちらにせよ、俺にとっては好都合。


 俺は息を殺して、夜にそびえる屋敷を見上げる。

 こんなに広い屋敷だ。おそらく様々な職種の人物が住み込みで働いているはず。



「……大抵、間抜けな奴が一人や二人はいるものだ。どこかにカギをかけていない窓があるはずだ」

「ほら、あそこ」




 キャンディの腕がさす方向に目を凝らすと、屋敷に続く重厚な外階段。

 その少し左側の窓が開け放たれているのが見えた。




挿絵(By みてみん)




「お……開いてるな」

「でも、明かりがついてるじゃないの、大丈夫かしら」

「大丈夫……じゃなかったら、たのむぞ」

「え? なにをよ」




 俺は背を丸め、猫のように庭を一気にすり抜けて階段までたどり着くと、頭を低く手すりに沿って上る。そのままあいている窓の下に潜り込んだ。




 顔を少し出すと室内がみえる。薄明りのついた洒落た雰囲気の客間のようだが、視界に人は映らない。俺は窓枠に手をかけると一気にするりと忍びこんだ。

 その時、左手にある黒革のソファの向こうから妙なうめき声。俺は咄嗟に息を止め、氷のように固まる。


 聞こえてくるのは、俺の体を溶かすような熱く絡み合う男女の声。

 キャンディが「きゃ」と小さく叫んで、ポケットの中に引っ込んだ。

 俺は息を殺して、両手をつきながら、ゆっくりと這うように進む。ここからまっすぐに行けば、すぐに部屋の出口の扉。


 じりじりと進んでいくと、ソファの向こう側が視界に入ってきた。白いシーツの下から延びる日に焼けたふくらはぎの男の足と、重なる女の白い足首。


 床でいたすのが趣味なのか。どうやらこちらには全く気が向いていないようだ。

 俺は中腰になり素早く部屋のドアにちかよる。

 あの二人は、お互いに夢中のようだ。それにしても客間にしけ込んで一体何をやっているんだこいつらは。主人に言いつけてやろうか。

 

 俺は、息をひそめてゆっくりとドアを開け、廊下を盗み見る。


 左右確認、長い廊下に人影はない。


 が、その時、男の声がした。


 俺は慌てて顔を引っ込めて、ドアを少しだけ開けて耳に神経を集中する。


 この声は今しがたこの屋敷に帰ったばかりのランカ。


 俺は慎重にドアをずらして、少し顔を出した。

 ちょうど廊下突き当り奥の部屋に入っていくランカの広い背中が見えた。

 部屋の位置を確認した後、俺はドアをゆっくりと閉じて、もう一度部屋の窓に近寄る。


 さっきよりも男の声がうわずっているように聞こえる。



(ああ、鬱陶しい)



 俺は心の中で毒づくと、男の絶頂の声を聴きながら、窓から再び外に飛び出た。




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