呪魔、赤竜★
俺は青い炎を放つ大きすぎる剣を握りしめる。巨大な剣は驚くほど軽い。切っ先をゆっくりと目の前の真っ赤な竜に向ける。この竜が、呪いが具現化した存在である”呪魔”というやつか。
呪魔赤竜は大きな牙をむき、舌をだらりと垂らした。唸り声とも言葉ともとれる響きを口元から発する。
「貴様、その剣は我がダークエルフの秘宝。なぜだ。なぜその剣がここに」
「知らねーよ。おれだってこんなもん手に入れたくて手に入れたわけじゃねぇ」
その時赤竜の目が左右にゆれた。動揺しているのか。俺は剣を構えたまま赤竜に、にじり寄る。
「へっ、どうやらお前にとってこの剣は都合が悪いようだな。覚悟しやがれ。たたき切ってやるからよ」
「貴様……この呪いを解くことの意味を理解しているのか。女神エレシュの魂を器であるあの巫女の体に戻せば、やつは本来の力を取り戻す。お前にそれが制御できるわけがない」
「……いったい何を言っている」
「エレシュの力は脅威となる。われらダークエルフのつくりし魔術陣で制御しなければ、やつは世界のすべてを焼き尽くすであろう」
「そんな与太話は脅しにもならねぇぞ。なら聞くがなぜおまえ達ダークエルフはエレシュを冥界から呼び出したんだ」
「ダークエルフも一枚岩ではない。一部の者たちが暴走したのだ。世界を支配下におさめるためだといって力を借りるため神格を呼び出した。私はずっと反対していたのだ。だから器である巫女から魂を引きずり出し、忘却術をかけてぬいぐるみの中に閉じ込めていたのに。だというのに、やつをとり逃がした」
「へぇそうかい。だが、いいことを教えてやる。エレシュを連れ戻すためにもう一人の女神が迎えに来ているそうだ。これでひと安心だろう。エレシュは冥界に連れ帰られるんだから」
「もう一人の女神?」
「そうだ、なんにも知らねーのか? そのもう一人の女神がダークエルフを滅ぼしたんだとよ」
「ダークエルフを、滅ぼした……?」
赤い竜はゆらりとしていた体を止めた。そして、ゆっくりと肩を揺らせて笑い出した。その笑い声はどこか悲しげに響き渡った。赤竜は笑い終えた後、じっとりとした目でこちらを見た。そしてつぶやく。
「あれほど皆を助けようとしたのに、もうわが同胞はいないというのか。私はいったい何のために……わが身をかけてこの呪いをかけたというのに」
俺に言われても、知るかよそんなこと。俺はもう一歩近くによる。それにしてもどうすればこの剣を使えるんだ。ただ振り下ろせばいいのか。
その時、赤竜がぐるるとうなった。こちらを鋭くにらむ。
「もうダークエルフがいないのならばなおさら。この呪いを解くわけにはいかぬ。貴様はここで死ね」
いうなり赤竜は大きな口をあんぐりと開き、一気に迫りくる。
「ひぃええええ!」
俺はすんでのところで左に飛びよけた。地に這いつくばりながらも向きを変えて素早く立ち上がる。剣を握りなおそうと右手に力を込めた。
「……ん?」
剣が、無い。え、え、どういうことだ。周囲を見渡すが、ここはかわらず異空間で、変わらず目の前にどでかい赤竜の顔と牙。剣を手放せば、いつでもこの異空間から抜け出せるんじゃなかったのか。
その時、右手が輝きだす。右手そのものが深い青に輝きだした。
赤竜の声が地から響く。
「ふふふ”取り込んだ”か。まさか、その剣を使いこなすものがダークエルフ以外から現れるとは。いいだろう。この私を切り裂いてみるがいい!!」
竜はさらに赤く輝くと、雄たけびとともに大きく飛び跳ね、すべての敵意を俺に向けた。
上から敵意をまとい大きくのしかかってくる。俺は、見上げながら死を覚悟した。