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モフモフだからモフで良い

ケルベロスはゆっくりとこちらに迫る。


俺は右手の鞭を握りしめて、呪具拝借の呪詞(のりと)を唱えようと、口をひらく。


その時、キャンディがつぶやいた。



「……まって」


「待つって何を?」


「あの子からは敵意を感じないわ」


「敵意がなくとも食欲くらいはあるだろう、俺はあいつの腹の中におさまる気はねぇぞ」



その時、突然キャンデイが俺のポケットから飛び出してケルベロスに向かってちょろちょろと走り出す。俺は思わず大きな声で呼び止めた。



「お! おい! なにやってんだよ!」



キャンディは何も言わずに小さな背中でちょこちょことケルベロスの足元まで近づくと、右の手を上にぴゅっと伸ばした。なんだよありゃ、お手のつもりか。


ケルベロスは大きな体を左右に揺らしながらキャンディに目をやると、ふいに足を止めた。


すっと真ん中の顔を降ろして、キャンディに鼻先を近づけ匂いを嗅いでいる。


すると突然、ゴロリと寝そべり腹を上に向けた。くぅんと小さな鳴き声をあげて背中を床にこすり始めた。え、なんでしょうかあれ。


キャンディは寝そべるケルベロスの無防備な腹にとびのるとお腹をさすってこちらをみた。



「きゃー--! モフモフよ! かわいい!! モフモフ!!」



ケルベロスの顔から、さっきまでの険しい目つきは消えている。細い月のような目でにんまりとしている。


キャンディの事をダークエルフと認識しているのだろうか。俺は握りしめた鞭を腰巻に引っかけて恐る恐る近寄る。そばまでくるとそのデカさがさらに際立つ。白い毛でおおわれているものの、おそらく大馬と同じくらい立派な肉付きが毛の下に潜んでいるのがわかる。足の指から伸びるかぎづめが鋭くひかる。


俺は純粋な疑問を口にする。



「こいつ、どうして、お前になついてんの?」



キャンディは腹の上で寝そべりながら答える。



「わかんない! わかんないけど! カワイイ!!」


「おい、まったくもって答えになってねーぞ」


「いいじゃない、とにかく敵じゃないことは確かよ。よかったじゃない」


「まぁねぇ……そりゃ、そうだが」


俺はじゃれあうケルベロスとキャンディを眺める。黒と白のコントラストがまたなんとも。俺は視線を外し、元来た道、あの階段の方向を見やった。


じゃ入口にあったあの壁画は何なんだ。あきらかにケルベロスとエルフが争っているように見えたが。


一通り、じゃれ終わったようでケルベロスはゴロリと四つ這いになり、こちらに頭をさげてすり寄る。


青白いたてがみの隙間からキャンディが、顔を見せた。



「のれってさ」


「お前、こいつの心がわかるのか?」


「さぁ、なんとなくそんな気がするだけ」


「ったく……俺が背中に乗った途端、怒り出すとかは無しだぜ」


俺はケルベロスの横に回り込み、反動をつけて背中に飛び乗った。股の下、ケルベロスの息遣いに合わせてぐいっと体がおしあげられる。



「乗りにくいな、どこを掴めばいいんだよ」



俺は仕方なく手元当たりの毛を握った。このへん掴んでも、いたくないかな。俺は緊張しながらつかむ。



「うおっ……なんて……モフモフなんだ」



俺はどこか幸せな気分になった。



ケルベロスは俺たちを乗せると、くるりと体の向きを変えて、ゆっくりと寺院の入り口にむかった。



俺はケルベロスの頭に乗っかっているキャンディの背中に声をかける。



「おい、コイツの名前を決めておこう」


「名前?」


「コイツとかケルベロスとかじゃ、呼びにくいだろ」


「そうね……モフモフだから、モフでいいんじゃない?」


「モフ……悪くないな。じゃ、モフ! よろしくな」



俺は背中を軽くたたいた。


モフはどこかうれしそうに、ぐるると唸った。

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