呪いの階段
木々の隙間から抜け出し、早足で歩いてきた女はリヒと同じく、肩や脛などの一部を防護する軽装鎧に身を包んでいた。短めの赤い髪をさらりと揺らす。炎の紋章師アニストは俺に近寄り、右手を差し出してきた。
「あなたが、ようやく見つかった、呪いの紋章師さん?」
俺も右手をさしだす。ぐっと握ってきたアニストの手は妙に熱かった。俺は手をはなした後、アニストにふとたずねる。
「ようやくって事は、ずっと呪いの紋章師をさがしていたのか?」
「そうそう、わたしとリヒはずいぶん前にメビウスから話をもらっていたんだけどね。肝心の呪いの紋章師がなかなか見つからなくてね。そうよね、メビウス」
アニストはメビウスに目をやる。俺もメビウスに顔を向けると、メビウスはこちらを見てうなずいた。
「さようです。呪いの紋章師は数がすくないのか、その存在が表に出にくいのか、なかなかいないのです。ですから、あのようなオークションに呪具を出品してめぼしい人物がいないか探していました。そこで見つかったのがウル様なのです」
「そうなのか。でもどうして呪いの紋章師なんだ。この作戦には呪いの紋章師が必要って事か?」
「さようです。呪いの紋章師の中でも、呪いの防御ができる人物が必要でした」
「ほう。理由を聞いてもいいか?」
「はい。実は千年遺跡がこの地に出現した直後から探索を開始したのですが、早々に打ち切りになったのです。その理由が入り口に入ってすぐの場所。地下へとつづく”呪いの階段”のせいなのです。おそらく侵入者に対する罠だと思うのですが」
「ふむ」
「その階段に足を踏み込んだだけで、皆が体に不調をきたし、錯乱してしまい、まるで先に進めないのです。最初は毒か何かだと思ったのですが、少し奥まで進めた者の話によると、奥の壁のあたりに『呪印』らしきものが見えた、との報告がありました」
「呪いの紋章師が使う呪印か……。じゃ、あの斬呪剣をにぎらせたのは、そういう強力な呪いに耐えられる人物を探していたって事か」
「はい。あの斬呪剣の呪いに耐えうるだけの人物ならば、千年遺跡の最初の罠である”呪いの階段”を通過できるのではないかと思い」
「か~……俺に斥候(偵察のための要員)になれと。じゃ、その先に何があるのかはまだ全くわかってないんだな」
「さようです。ですから、非常に危険な任務です。ウル様にはその呪いの階段にかけられている呪いを解いていただきたい」
「なるほど……階段にかけられた呪いとはね、そんな呪いは初めてだな」
なんだかわからない事だらけだな。メビウスにうまく使われているような気もするが。黙り込んだ俺を気遣ったのか目の前のアニストが口を開く。
「わたしたちも、あなたの後ろで待機している。もしも何かあったらいつでも助けに行くぞ。あの階段を抜けられればの話だがな。なぁリヒ」
リヒは耳をふるわせ首をぶんぶん縦に振った。
「うんうんうん。もっちろん! みんなでお宝げっとしようぜぇ~、いえい」
とりあえずは、試してみるか。俺はうなずいた。




