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短剣の紋章師、猫耳族のリヒですぅ

俺は自分で選んだ天幕の中に入りこんだ。妙にテンションが上がる。


一番乗りの特権だぜぇ。ぐへへへっと。


入ると中は意外と広い。3人は十分横になれるくらいの広さがある。麻でしつらえた茣蓙(ござ)の上にきちんと布製の敷布をしいて寝床を作ってある。端っこには荷物を入れる木箱も設置されている。外観ほど悪くはないな。


これを全部ドネシアが一人で準備したのだろうか。


俺は屋根を見上げながら中央の寝床に座り込んで、荷袋をおろす。革靴を両足からすぽんとぬいてから、足の裏を指でもんだ。


「かぁ~、つかれた」


キャンディがポケットから飛び出して、ちょろちょろと動き回る。そういえば、キャンディの事はドネシアには伝えていないが大丈夫だろうか。気になってはいたものの、取り立てて話す気にもなれずそのままだ。そこまで義理を通すような間柄でもないか。


俺は荷袋から呪具をだす。


まずは木箱に入った斬呪剣、これが今回の仕事のきっかけとなった呪具だ。あとは遺跡の探索につかえそうな呪具をいくつか選んだつもりだが、役に立つかどうか。千年遺跡の中には珍しい魔獣や武器が数多く潜んでいると言われているが。


まぁ、戦闘に関しては他の紋章師達に頼ってしまう事になるかもしれんな。


キャンディは飛びはねながら聞いてきた。


「ねぇ、しばらくここで寝泊まりするの?」


「どうだろうな、俺としては問題はないが。俺以外はみんな女みたいだからな。さすがに彼女たちは一番近くの街の宿屋にでも戻るんじゃないか」



その時、天幕のそとから声がかかった。俺が返事をかえすとドネシアがこういった。



「ウル様、他の紋章師が参りました。ひとまずご紹介を」



俺は靴を履いて立ち上がると、キャンディを胸ポケットに迎えてから、天幕の外に出た。


テーブルの前で向き合うように2人が立ち並んでいる。ドネシアともう1人。俺がテーブルの脇まで進むとドネシアが頭を下げた。俺も頭を下げてもう一人に視線をむける。


すらりとした足元、太い黒革のベルトに剣を携えている女。肩当てのみの軽装鎧。緑がかった髪が肩ごしで揺れる。意志の強そうなキリリとした眉の下にある大きな瞳をこちらに向ける。そして頭の上から、大きな耳が生えている。猫耳族か。女は自分から名乗った。


「どもども、あなたがウルさんね。よろしく~。私は猫耳族のリヒですぅ。短剣の紋章師ですぅ」


俺は意外な種族を前に、すこしたじろいでしまった。小さくうなずく。


「あ、あぁ、ど、どうも。初めまして。呪いの紋章師ウルだ。ところで、お前さんも、ドネシアから渡されたあの誓約書に署名したのかい?」


リヒは目を大きくしていたずらっぽく微笑んだ。


「うふふ、ウルさんも渡されたのね~。もっちろん書いたわ。ここで起こったことは秘密なのよね、ドネシアさん」


リヒがそういいながらドネシアに顔を向ける。ドネシアはそれに応じる。


「ええ、さようです」


リヒが続ける。


「ウルさん。あの誓約書、すみずみまでちゃんと読みました~? 守秘義務を破ったら相応の罰金か投獄されるらしいですよ~気をつけないとね」


「まぁ一応は読んだがねぇ……」


「リヒね、呪いの紋章師って会うの初めてです。リヒもこんど誰か呪ってもらおうかな」


「いやぁ、俺の仕事は主に解呪でね。だれかを呪いたいんならよそをあたってもらったほうが」


「いやん、素敵! 正義の味方ね!」


リヒは大きな瞳をクルクル動かす。正義の味方ってなんだ。俺は答えに窮してドネシアに救いを求める。ドネシアは仏頂面で俺たちのやり取りを聞いている。あ、こいつに場をまとめるのは無理だな。俺は調子をあわせる。


「そうだぜ、正義の味方、ウルだ!」


「いいぇーい! うる、うる~。ぱちぱちぱち~」


リヒは手を叩いた。あ、こういうノリ、意外と嫌いじゃないかも。俺もリヒに合わせて拍手した。そのとき、後ろから声がした。


「あ、わりぃ! おくれちまった!」


 俺たちが一斉に振り向くと、木々の隙間から女が歩いてきた。おそらく彼女が炎の紋章師か。どうやら全員集合のようだ。


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