誓約書
それではここからは新たなお話第六章の始まりです!!
ではではどうぞ!
俺は呪いの紋章師ウル・べリントン。べリントン家から追放された、呪いの紋章師だ。そして独り身のおっさんだ。
呪具をあつめて気ままにひとりで暮らしていたのだが、最近俺の元に呪いを解いてほしいと訪ねてくる客が増えて困っているところだ。
人気者ってつらいのね。なんて調子こいていたら、本当にしんどくなってきちゃったのだ。もうさ、年取ってくると金稼ぎに生きがいなんて求めないんだよ。
その日を楽にしのげりゃそれでいいのよ。
って事で、一度忙しさから逃げ出す為に、引っ越しを考えたものの今まで集めてきた呪具の保管庫がなかなか見つからず、まだ動けずに足踏み状態だ。
くそう。このままだと過労でおかしくなる。こんはずじゃなかったのに、ぐすん。
今日も今日とて約束がある。しかし、今日の約束は特別だ。
少し前に、お師匠のテマラに誘われた呪具オークションで手に入れた『斬呪剣』という刃のない摩訶不思議な剣。
この剣には強烈な呪いがかけられていて、俺のように特殊な『呪いの耐性』をもったものでないと握った瞬間、破裂する。
破裂というのは比喩じゃなく、本当に肉体が崩壊するのだ。大げさでなく瞬きする間に人が溶ける。
それにこの剣は呪いを実体させ切り殺すことで解呪できる特殊な武器。そしてなんと呪いをその剣身に吸収するという特性があるらしい。
が、あくまでもこれは聞いた話でしかない。それに、その話自体も意味がよくわからん。それを確かめる。
この剣の元持ち主、メビウス・ドネシア。今日の仕事の依頼主はそのメビウスなのだ。
俺の山小屋、小さなテーブルをはさみ腰かけたメビウスは被っていたフードを後ろに、早速口を開いた。
「お久しぶりです。ウル様、さっそくですがこちらに血印を頂きます」
俺の反応なんて一切気にならないのか、メビウスは胸元から丸まった羊皮紙を取り出して、テーブルに置いてゆっくり広げる。びっしりと文字が並ぶ。俺は書面をのぞき込みながら聞く。
「なんだこれ?」
「誓約書でございます」
「何を誓えって言うんだよ。ま、まさか……お前さん、お、おれと結婚したいのか」
「いえ、違います」
「……まぁ、そうでしょうねぇ……」
「とりあえず、目を通してください」
「は~い」
俺は羊皮紙を手に取り眺める。いくつかの項目、いちばんしたに署名と印の欄。
おいおい、なんだこれは。秘密保持の誓約書じゃねーか。
一気に俺の気持ちが冷める。この依頼、断ってもいいんだぞー、おん、こら。
俺は書類から視線を外してドネシアに目を向けて伝える。
「今回の仕事の内容を誰にも話すなってことか?」
「さようでございます」
「あのよ、はっきり言って気分が悪い。仕事を頼みに来ておいて、秘密を守ると約束しないと仕事の内容を教えませんとか、一体どういう道理なんだよ。無礼にもほどがある」
「気分を害されたのでしたら、申し訳ございません」
「謝られてもね。今回の仕事の依頼主はお前さんじゃないのか?」
ドネシアは切れ長の目をさらに細めて、黙り込んだ。そして小さく言った。
「お答えできません。ここからはワタクシの独断で話します」
「なんだ?」
「今回の依頼には”千年遺跡”が関わっているのです」
「千年遺跡っていやぁ……幻の太古の地下遺跡の事だろ?」
「さようです。実は千年遺跡が、我がドネシア家の領土に出現したのです」
「ま、まじか!? そりゃ……ん、てことは?」
「お察しの通りです。我がドネシア家領土に千年遺跡が現れたことは公には伏せられているのです。そのための秘密保持の誓約書です」
俺はドネシアをまじまじと見る。あれ、よく見るとエキゾチックな美人さんだったのね。