呪魔って何?
俺はゆっくり眠りから覚めた。
テマラの屋敷で行われた呪具オークション。3日続いて行われたあの悪夢のようなひとときは昨夜で幕を閉じた。いやー3日連戦はキツイっす。
俺は頭をもたげて見回す。寝室の窓全てにひかれたカーテンの隙間から光がこぼれて床に侵入している。この感じ、もう昼だな。
俺は寝台から、這い出し一階の客間に向かった。
客間はすでに元通り。いくつかの4人がけの四角いテーブルが配置良く並ぶ。ムンの奴、1人で片付けちまったようだ。
俺が一番手前の椅子にすわりぼんやりしていると、背中のすぐ後ろからムンの爽やかな声がした。
「お目覚めですか」
俺が見上げるとムンが作業着をきて立っている。また庭の手入れをしていたらしい。それにしてもよく働く奴だな、まったく。
俺は半開きの目をこすりながら聞いた。
「お師匠は?」
「まだ、寝ていますよ。ウルさんももう少し寝ていればいいのに」
「すまねーな。この部屋の片付けを一緒にするつもりだったのに」
「いいですよ、昨日はお疲れ様でしたね」
ムンはすっきりした顔で笑った。昨日のオークションでもなかなか色々あったはずだが、あまり気にしてないようだ。なんとも末恐ろしい若造だ。
ムンは俺の食事を用意してくれると言って去ろうとしたが、俺は引き止め前の席に座らせた。
俺はたずねてみた。
「なぁ、ムン、お師匠が買ったあの折れた剣は何なんだ?」
「斬呪剣の事ですか?」
「ああ。お師匠はあの剣を俺に使わせたいようだが……」
「僕も売り主から聞いた話しか知りませんが。あの剣は呪いを実体化、可視化して実際に斬り殺す事ができるそうです。ただ、使える人が限られる為、何が起きているのかは剣を握った本人にしか理解できないようです」
「呪いを実体化する?」
「ええ。よくわかりませんが、見えないものが見え、見えるものがみえなくなるそうです。それと、売り主は実体化した呪いの事を『呪魔』とよんでいましたね」
「で、呪いをため込むってのは?」
「斬り殺した『呪魔』をあの剣が吸い取るそうです。だからあの剣には今まで吸い取った相当数の『呪魔』がとりついているそうですよ。つまりいくつもの呪いがあの剣にかかっているんです」
「ふーん……確かに、よくわからんな。その売り主ってのはどういう奴なんだ?」
「残念ながら、素性は僕も知りません。その為の秘匿化規則ですから」
「あ、そっか。だから顔隠してたんだもんな」
ムンは不意に腕を組んだ。
「もし売り主に興味があるのならば、ウルさんの素性を相手に伝えることは出来ますよ」
「ま、ちょいと考えさせてくれ」
「わかりました」
ムンは庭の手入れがある、と言い残して席を立った。
呪いを実体化する。やはり、気にはなるな。俺はしばらくまたぼんやりとしていた。