高位魔術
俺がテマラの顔を見ていると、テマラはふいっと前を向きなおり右手を上げた。
その指はまっすぐに5本とも開かれている。金貨500枚から。
あんなの買ってどうすんの。俺に持たせるつもりか、このじーさん。
冗談じゃねぇぜ。握ったら人が粉々に破裂する剣なんて、危なっかしすぎてまず管理が大変じゃねぇか。
「ちょと、お師匠。あんなもん買ったって俺持ちませんからね」
「何いってんだ。あれはお前じゃないと使いこなせない、俺だって無理だあんな物騒なもんは」
「あのねぇ、自分で物騒なもんっていってますけど。俺にあれを持たせて何しようってんです?」
「お前の専門は解呪だろ。あれは呪いを切り殺す、いわば解呪の剣だ。お前にピッタリじゃねぇかよ」
「あんなもん使わんでも十分やっていけますよ」
「……わかってねーな。あの剣の真骨頂は呪いを解くだけじゃねぇところだ」
「解呪だけじゃない?」
「ムンの話を聞いてなかったのか、あれは呪いをため込むことができるんだよ。あの強烈な副作用もそのせいだ、あの剣には相当な魔力がつまっている」
そういえばさっきムンが言っていたような気がするな。
「で、そのたまった魔力を使って何しようってんです」
「決まってんだろ、さらなる高位魔術を使う時に必要だ」
「高位魔術……?」
確かに、高位魔術の中には一人では扱えない規模のものがあることはある。
その最たるものがこの国の『天資の儀式』で行われている『覚醒術』だ。
いわゆる紋章を授けられるあの術。あの覚醒術を受けた時、俺を囲む魔術陣の方々に紋章師がいた。
少なくともその数は10人以上。
それほど膨大な魔力が必要な魔術という事だ。
しかし呪いの魔術でその規模の魔術を俺はしらない。せいぜい2、3人で使うレベルのものしか知識としては知らないのだ。
チクショウ。このじーさん、まだまだ俺の知らない呪いの魔術をいくらでも知っているって事か。
てか、その前に、あの壇上に散らばった肉片と血の泥を何とかしてほしい。さすがに気分が悪くなってきた。
俺は口をおさえながら周囲を見渡すが、マスクの連中は誰一人気にしている様子もない。
テマラのみならず、ここにいる連中は全員がおかしいようだ。
その時ムンの声が聞こえた。
「他にいませんか? いなければ金貨500で決まりますが」
俺は肩を震わせる。
え、え、誰かかえ、別の誰かがかえ! こころで念じるも、俺の思いは届かなかった。
ムンの声が響く。
「では、金貨500で落札です」
隣でテマラのうれしそうな、うほっ安すぎる、という声が聞こえた。
その後もいくつかの呪具が出てきたが、俺は頭に入ってこなかった。はやくこの場を離れたい。
俺はなんとか吐き気をおさえつつやりすごした。