朽ちた剣
テマラは小さくつぶやいた後、身を乗り出し、前のめりにテーブルに肘をついた。
壇上に上がったマスクの男の手には銀のトレー。その上に赤い布切れが敷かれている。
そこにのせられている物。一目では何かわからなかった。十字架を模したようなオブジェが横たわる。
俺はテマラに聞いた。
「なんです、あれ。十字架ですか?」
「あれは折れた剣の持ち手と鍔の部分だ」
俺はもう一度よく見る。なるほど。根本からポッキリ折れてしまった朽ちた剣だ。十字架にみえたのはそのせいか。でも、どうしてあんなぶっ壊れた剣がほしいのか。
朽ちた剣をトレーに乗せた男の隣に立っていたムンが説明をはじめる。
「さて、見た目はタダの折れた剣ですが、この剣には恐ろしいほどの呪いがかけられています……いや、呪いが溜まっていると言ったほうが良いですね」
呪いが溜まっている? どういう意味だ。俺が次の説明を期待していると、テマラが口を開いた。
「それは、斬呪剣、で間違いないか?」
「さあ、色々と呼び名がありますのでなんとも。僕の聞いた限りでは斬呪剣、呪魔の剣、解呪の宝刀とも呼ばれています」
テマラはムンに話す。
「すまんが、その呪いの効果がみたい」
「いったい、誰で試すのですか?」
「誰かいないか?」
テマラは大きめの声を上げて周囲を見渡した。あえて呪いの武器を装備しようなんてあほな奴がいるはずない。テマラは語気を荒げる。
「おい! 誰かいないか、その剣を握った奴に金貨300出そう!」
すると、ムンの後ろ、部屋のすみに立っていた護衛らしき男が右手を上げて一歩進む。ムンはちらりと男を見るとたずねた。
「本当にこの剣をにぎるのかい?」
「ああ、握れば金貨300枚だろ?」
ムンは何も言わず男に場所を譲る。男は歩を進めると、トレーの上に手を伸ばし剣の持ち手を握った。
一同の目が集まる。何も起こらない。男の顔が金貨を手に入れた喜びにゆるんだかと思った瞬間。
男の全身が破裂した。ように見えた。俺は一瞬目を閉じまぶたを開く。
男の姿はなく、男が立っていた場所を中心に肉片と骨、そしておびただしい量の真っ赤な血の海。なんだ、今のは。
少し遅れて、何が起きたのか理解したのか一同がどよめく。しかし、場が混乱する事もなくすぐに、静かになった。
破裂した男の隣にいたムンは全身に男の血を浴びて真っ赤に染まっている。しかし、ムンは少し目元を手でぬぐうと、淡々とテマラに話しかけた。
「いかがですか?」
テマラは満足げに返す。
「ま、いいだろう」
赤い血を滴らせながら顔色ひとつ変えずに話すムンを見て、俺は確信した。やはりムンはテマラの息子だ。いかれてやがる。
その時、テマラがこちらをくるりと向いた。俺につげる。
「さ、ウル。お前の出番だ、あの剣を握ってみろ」
「はぁ? お師匠何を言ってるんです?」
「お前には、驚異的な呪いの耐性がある。お前ならあの剣を握っても問題ないはずだ」
「はぁあああ!?」
勘弁してくれ。このじじい、マジか。