主催者はムン
出迎えの紅茶を飲んだ後、俺はムンに出された簡単な昼食を済ませる。
それにしても、ムンは何でもこなしちまう奴のようだ。庭の手入れから娼婦の手配、食事の準備まで。そりゃあ、料理人のような手の込んだ食事とまではいかないが、不満なく食える程度の仕上がりだった。
俺とキャンディがテーブルでぼんやりとくつろいでいると、ムンが客間に入って来た。
ムンが入り口のそばに立つ姿を見て、何故か俺は昔の自分を重ねた。俺は声をかける。
「お前さん、いつからここに?」
「僕は数日前から、ここに住んで父の身の回りの事をしています」
随分と最近だ。
「俺も、昔お師匠に呪いの魔術を教わってた時は、身の回りの事を全部やらされたわ」
「そうでしたか、じゃ僕の先輩ですね」
「よしてくれ、俺は呪いの紋章師としてお師匠のそばにいただけでな。それにしても、お前さんはどうしてお師匠の世話なんかするはめに?」
「この機会だけですよ」
俺は意味がよくわからず、聞き返す。
「ん? じゃ、しばらくしたら出ていっちまうのか?」
「ええ、呪具オークションが終わるまで、です」
「へぇ……そうかい」
一歩踏み込んだ次の質問をして良いものか。どうしようか迷った俺に気がついたのかムンは答えた。
「実はね。僕は呪具オークションの主催者なんですよ」
「えぇ!? お前さんが?」
「はい。そして、今回の呪具オークション会場はココなんです」
「この屋敷で?」
「ええ、まさにいま僕たちがいる、この広い客間で」
なんとまぁ、あの爺さん、ついに趣味が高じてオークション会場まで自分で準備しちまうようになったのか。
え、てことは。俺はムンに聞いた。
「じゃ、ここに売り手と買い手が集まってくるのか?」
「そうです。なので、ウルさんにも会場の準備を手伝って頂けないかと……」
「へっ、なるほどなぁ。どうりで。なんだか手厚くお出迎えされてんなとおもったわ。それを頼むためだったのか」
ムンは小さくわらいながら、言った。
「いえ、別にそういうわけではないですよ。でもウルさんもこの呪具オークションの参加者になるので、僕からするとお客様です」
「よく言うぜ、まったく。ま、会場準備くらいは手伝っていいが」
「ありがとうございます、オークションの日時は2日後、太陽が沈んでからになりますので」
「わかった」
俺はムンの大人しそうな顔を見る。しかし、こんな優男風の奴が呪具オークションを取り仕切るとは。あのオークションは呪いの道具が集まってくるイベントだ。
しかも、盗品や偽物、遺跡荒らしどもからの横流し品など、様々な品物が競りにかけられる。非合法な取り引きも多い。必然的に参加する売り手も買い手も怪しげな連中ばかりになるんだ。そんな奴らをまとめ上げるって相当な胆力がいるはずだが。
それをこのムンができるのか。まだ若造じゃねーか。考えにふけっている俺の耳にムンの声が聞こえた。
「じゃ、ウルさんしばらくしたら、声をかけますね」
ムンはそういうと、部屋から出て行った。