貴族も色々★
俺はムンに案内されて、一階の客間に通された。
テーブル席について待つよう言われ、深い背もたれつきの椅子に腰かける。
目の前の正方形の4人掛けテーブルの脚には表面にこまやかな模様の装飾がなされている。
天板は透明のクリスタル製かなにかか。豪華すぎる客間に俺みたいな小汚い格好の男。ばちがいったらないな。
キャンディがポケットから顔を出す。
「すっごいお屋敷ね……」
「確かここは、もともと小貴族、ロンジン家の別荘だったはず」
「小貴族? 小さい貴族がいるの?」
「ああ、俗称だよ。貴族の階級って覚えるのめんどくせーだろ。こう・こう・はく・し・だん」
「こうこう? なに?」
「公爵、候爵、伯爵、子爵、男爵だよ。それが面倒だから、地位や領土の大きさで大中小で呼びわけられてんだ」
「へ~」
「この国を治めている七貴族はいわゆる大貴族とよばれている」
「ウルのいたべリントン家もそうよね?」
「そうそう」
「ふぅん。こんなに立派な屋敷を持っていても、小貴族なのね。じゃ大貴族なんてもっとすごいのね」
「そりゃそうさ、領土と財力の大きさがそのまま家の家格につながるからな。俺ってこう見えて、実はすごい家柄なの」
「でも、もう関係ないんでしょ?」
「まぁ……そうです、はい」
その時、鼻を通る苦い香りと共にムンが現れた。銀のトレーを両手に抱えている。その上に白い陶器に花の模様が施されたカップと、ポット。上品なことでまぁ。
ムンは俺の前にトレーを置くと、丁寧に紅茶のセットを置いて言った。
「ごゆっくりどうぞ」
ムンは、トレーを持ち上げると再び部屋を出て行った。
俺はポットの取っ手をつかみ、斜めに傾けて湯気の立った紅茶をカップに注ぐ。
次に、俺とキャンディはほぼ同時に同じセリフを言った。
「ていうかさ」「ていうかさ」
そして同時にだまる。俺はポットを静かにテーブルに置く。つぎになみなみと揺れる紅茶の入ったカップの取っ手に指をかける。
ひとまず、キャンディに発言を譲る。
「なんだ? 先に言ってくれ」
「ムンってひと、どうみても、あのお爺さんの息子さんとは思えないんだけど」
「だよな! だよな! いや~! やっぱ同じこと思ってたか! お前も!」
「なによ嬉しそうに。なんだか、上品すぎるわ。あの人もはだかで鬼ごっことかするのかしら」
俺は口元に運んでいたカップを噴き出した。
「ぶっ! おい、勘弁してくれ! 変な想像しちまったじゃねーか」
「ちょっと、とばさないでよ、汚いなぁ」
「おめーが変なこと言うからだろ」
俺は気を改めて、もう一度紅茶を飲みなおした。
うむ。悪くない味だ。