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オヤジ登場!★



ついに、バンッと音を立てて勢いよく扉が開いた。


向こうから、ノミで筋肉をそぎ落としたような細身の男が現れる。

神経質そうな目の男はぎろりとリゼを睨みつけた。

みるみるその顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。




挿絵(By みてみん)




「リゼ! お前は一体何をしているのだ、こんなところで! あれほど出歩くなと言ったではないか!」



押しつけられる傲慢な言葉。

リゼは慌てて立ち上がり両手を胸の前で握った。まるで祈るような格好で弁明をする。



「お、お父様……どうしてここに。ご、ごめんなさい。私どうしてもこの指輪をはやく外したくて、それで……」

「ワシがなんとかするからそれまで待てとあれほど言ったではないか! お前はどうしてワシのいう事が聞けんのだ! 考えもなくあちこちほっつき歩くから災難に巻き込まれるのだ、この馬鹿者め! 領主様に頼んで、お前はもう城にいてもらう!」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」



リゼは今にも消え入りそうな声で何度も繰り返す。


どうやら、この男がリゼの父親ミカエル・ステインバードか。

しかしながら、どう考えてもまずい状況。

俺はそろりと立ち上がり、部屋の隅っこのランプによりそった。

可能な限り身を縮めるが、当然、無駄だった。


ミカエルはこちらをぎろりと睨みつけると、俺の顔めがけて尊大に指をさす。



「で? なんだ、お前は? 年頃の娘をこんな日暮れに連れ出して」



 その時ランカが口を開く。



「ミ、ミカエル様……そちらの方は………」

「ランカ! お前は黙っていろ!」



ランカの咄嗟の弁明はミカエルの怒りによって打ち消された。

ミカエルは血走った目で、俺を睨んだまま続ける。




「なんだか、薄汚い格好だ。年頃の娘をだまくらかして、金を巻き上げるコソ泥だろう」 



 コソ泥ね、ま、当たらずも遠からず。俺はミカエルに向き直り答える。



「まぁ、そんなところですよ」


俺は、ちらりとリゼに目をやる。

リゼは両手で顔を覆いかくし、肩を震わせしゃくりあげている。

顔をおさえる両手は黒い皮の手袋がはめられている。普段からあんな分厚い手袋をつけて生活しているのか。

そりゃ、はやく指輪を外したくもなるわな。

ミカエルはまだ怒りが収まらないようで耳障りな声でわめく。



「おい! ワシら親子に近づいて一体何を企んでいる! ワシはここの領主様にも顔が効くのだぞ! お前のようなコソ泥なんぞ、すぐにでも牢に放り込めるのだ!」

「悪いが、俺はお嬢さんに呼ばれてここに来ただけでね。お邪魔でしたら退散しますよ」

「さっさと失せろ! どうせ金が欲しいのだろうから、これでもくれてやる!」



ミカエルはそういうと胸ポケットにすっと手を差し込んでから、こちらに何かを投げつけた。


俺はつい目を閉じて顔を背ける。

俺の胸に軽い衝撃が走りバラバラと何かが床に散らばるような音がした。

俺が薄く目を開いて足元を見ると俺の周りで何枚かの金貨がクルクルと踊るように転がる。

次第にすべての金貨がパタリと寝そべった。

俺がうつむいたままじっとしているとミカエルがさらに続ける。



「どうした、早く拾わんか。カネが欲しいのだろう。それとも、お前のように卑しい身分の者は金貨など見るのは初めてかな?」



金貨なんて腐るほど見てきたさ。その価値はよくわかっている。

カネをこんな風にぞんざいに扱うお前こそ、カネの価値を本当はわかっちゃいねぇんだ。


俺はゆっくりと足を折り曲げて床に膝をつく。

点々と散らばる金貨たちを両手ですくい集めた。

立ち上がった俺にミカエルはさらに侮蔑の言葉を投げてくる。



「どこまでも卑しい奴だ。そんなはした金でも惜しいのか。リゼが呼んだかなんだか知らんが、金輪際、リゼの前に姿を見せるな。もしも次にリゼの前に姿を見せた時は命が無いものと思え」



ミカエルはそう吐き捨てると、その蛇のような目をランカに向けた。



「ランカ! 腕が立つと思って護衛として雇ってやっているのに。今回は大目に見てやるがまた余計なことをすればただではおかんぞ! さっさととリゼを城に連れていけ!」

「……承知しました」



ランカの妙に冷静な声が、ミカエルの怒号と対照的に響いた。

ミカエルはその返事に満足したのか、踵を返してあっという間に部屋から出て行った。


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