テマラの息子はムンという
俺はとりあえず、一階におりて、娼婦たちを皆一旦帰した。
娼婦たちは、あらつまらない、とかなんとか言いながら服を身に着けると屋敷を出ていった。
どいつが、マリアだか、イザベラだか知らねーがとっとと帰りやがれ。
俺が屋敷の扉の前で彼女たちの背中を見送っていると、その団体とすれ違い、テマラの息子がこちらに歩いてくる。
帽子を脱いで会釈をする。俺も軽く頭を下げた。
そいつはそばまでくると俺に聞いてきた。
「もう遊びは終わりました?」
「お師匠が寝ちまったからな、強制終了さ、それにしても……」
俺は慌てて口つぐむ。まさかこいつ、今まで中でなにが行われていたか知らない、とかは無いよな。
黙り込んだ俺を見て、察したのかそいつは小さく笑った。
「ふふ、そんな顔しなくても。父の趣味は知ってますよ。彼女たちを手配したのは僕なんですから」
「そ、そうか。まぁ、人の趣味はそれぞれだからな、は、ははは……」
「そういえば、まだ名乗ってなかったでしたっけ、僕はムンといいます」
「ムンか。よろしくな。っていっても、そんなに顔を合わせることも無いだろうが」
ムンは泥のついた布の手袋を交互にはがしながらたずねてきた。
「たしかウルさんは、呪具オークションに父と行くんですよね?」
「のはずなんだが……でも、お師匠はすっかりそのことを忘れてたな」
「まさか! だって昨日言ってたんですよ。今日はウルさんが来る予定だからって。もっと遅くに来ると聞いていたので、僕も最初は気がつかなくてごめんなさい」
「いや、それはいんだが。お師匠今日俺が来るってわかってたのか? さっき話した感じではまるで忘れてたって感じだったが……」
「機嫌が悪い時は平気でうそをつきますから。ウルさん鬼ごっこの邪魔しませんでした?」
「あぁ……そういや邪魔しちまったわ。そうだな……久しぶりであの人の扱い方をすっかり忘れちまってるな、俺も」
「僕もまだ、よくわかっていませんよ」
ムンは意味深な言葉をつぶやいた後、つづけて俺に言った。
「じゃ、中にどうぞ。お茶でもお出しします」
「悪いね」
俺たちは屋敷の中に戻った。